408: 1/2@\(^o^)/ 2015/02/19(木) 16:36:02.60 ID:+FFXWCmWO.net
グレアム・グリーン「宝くじ」1947年発表 

42歳独身で気弱で人付き合いが苦手なイギリス男、休暇旅行でメキシコに行く。 
行き先が同僚と被る可能性、いや危険性を懸念して、辺鄙な町を滞在先に選ぶ。 
親戚の女達がきれいな肩掛けやシルバーアクセを喜ぶと知っているくせにメキシコシティやオアハカには行かない。彼は決して意地悪ではないのだが。 

偶然買った宝くじが一等に当たり、彼は労せず得た大金はこの貧しげな州に還元すべき、と考える。 
彼はスペイン語は片言しかできず、銀行支店長と知事閣下は英語ができない。交渉は英語のできる警察署長が引き受ける。

進歩と発展の為の尽力に感謝する(僕は自由党支持者です。進歩は喜ぶべき事です)
知事選が近いから現知事の選挙資金に使う(政治よりも例えば図書館とか。教育は大事です)
セニョールの言う事はごもっとも、その為には保守反動派の候補を叩いておかねば。
奴等は金持ちと結託して私腹を肥やした腐敗したキリスト教に支配されていた過去に逆戻りを企んでおるのだよ、外国から武器提供を受けてまで。
(僕は進歩と自由を支持します)

彼が滞在したホテルの経営者は、スペイン語に片言の英語とフランス語を混ぜて言葉少なに語った。
…我々は犬のように死んでゆく。死に際に司祭を呼ぶ事も、奴等の言う「迷信」に頼る事も許されずに…
なら対立候補に投票すればいい、民主主義国家なんだから。と何の気なしに反論した彼に、経営者は静かに言った。

409: 2/2@\(^o^)/ 2015/02/19(木) 16:37:15.99 ID:+FFXWCmWO.net
現知事は警察と軍と労働組合に支持されているが、昨日までは落選確実と見られていた。
知事には横領疑惑があり、警官と兵士への給料の支払いが数ヶ月止まっていた。
対立候補は知事の横領疑惑を書いたポスターを貼ったが警察は咎めなかった。
今日、宝くじの賞金で給料が全額支払われた。
反逆罪、名誉毀損。罪状なんてどうにでもこじつけられます。今そこを通った兵士の一団は、おそらく対立候補を逮捕しに行くところです。

経営者から聞いた対立候補の貧しげな住まいに駆けつけると、娘が一人いるだけだった。中庭に十字架があった。
もうすぐ兵士がお父上を逮捕しに来ます、僕の宝くじのせいです。と告げる彼に、娘は上手な英語で答えた。
「もういいんです、ご心配なく。父は奴等の流儀をよく知っておりますから」
こんな事になるとは思わなかった、自由党支持者として進歩と発展を応援しただけなのに。保守反動派が外国から武器提供を受けていると聞いたので。
「かわいそうに、奴等の主張を信じておしまいになりましたのね。私は元修道女です。修道院は破壊されました。十字架を隠し持つのは反逆罪にあたります。父は先ほど逮捕されました」

あなたが幾らか恵んでくれたら父を埋葬できるし他州から司祭を呼べる、あなたはいい事をしたと満足して帰国できる、と言われた彼は有り金を残らず渡した。
「かわいそうに、あなたは優しい人よ。でも人生というものを何一つご存じない」
彼の心に宝くじの売り子への憎しみ、支店長と知事と署長への憎しみ、名も知らぬ対立候補への理不尽な憎しみが拡がった。

出典: 後味の悪い話 その155