215: 1/2@\(^o^)/ 2015/02/07(土) 17:19:27.53 ID:mHxoE2rCO.net
星新一「暑い日の客」 

真夏の昼さがり、精神分析療法が専門のM博士の診療所に来客があった。 
助手は今、昼休憩。しかたなくM博士自身が客を迎える。 
この暑いのにダークスーツでネクタイをきっちり締め、帽子に濃いサングラスのなよなよした若い男だ。 
帽子とサングラスを取って楽になさい、と勧めると客はそのとおりにし、男装した美女の正体を現した。 
なるほど異常だ、と思いながら話を聞き出す。 

女は、先ほど受付の方に電話でお話ししたらすぐに来るようおっしゃいましたわ、こういう所にうかがうのは初めてですけど思いきってお訪ねしてよかった、とリラックスしたようだ。 
助手の奴め引き継ぎもせず昼飯に、あとで厳しく言ってやらねばと思いながら話を聞き出すと…

女は豚を殺して以来、犬にしつこく付きまとわれて難儀しているそうだ。
男装してホテルを転々としているが、犬はどういうわけか嗅ぎ付けて追ってくる。
豚が死んだ時、少しかわいそうになったがすっきりした。

なるほど、田舎道をドライブ中豚をはねた、と。ショックだろうが、はたしてその犬とやらは実在しているのかな。
豚が死んですっきりしたとは、確かに異常だ。

M博士は、あなたはたいへん魅力的だから犬を手懐けてみてはいかが、それで駄目なら勇気を出して立ち向かうことです、豚と同じようにやっておしまいなさい、と助言した。

216: 2/2@\(^o^)/ 2015/02/07(土) 17:21:55.80 ID:mHxoE2rCO.net
M博士は翌日の予約を取りつけ、女は代金だと言って金の入った封筒を押しつけて帰った。明日清算すればいいと思い、M博士は封筒をしまった。

女が帰ってまもなく、隣に事務所を構えるF弁護士がやって来て週末のゴルフに誘った。
ついでに雑談するうちに…

豚のようにいやらしい夫を殺して逃げている女性から、犬のように忠実な夫の部下に追われているので自首を考えているという電話がF弁護士の事務所にあったそうだ。
すぐ来るような事を言っていたが一向に来ない、いたずら電話だろうが迷惑。
もし来たらあなたに精神鑑定をお願いするかもしれません。
(その女ならもう来ましたよ)

F弁護士と入れ替わりに助手が戻った。
「先生、遅くなりました。実は、看板が汚れているので業者に持っていって直してもらってたんです。この商売、患者に信頼感を与えなければいけませんからね」

出典: 後味の悪い話 その155