248: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 22:52:06 ID:RJ2v.iIg
東京の自宅に戻る上りの新幹線の中で、私は、昨晩から今日にかけての出来事を思い返し、憂鬱になっていた。 ハンドバッグから、ベッコウの髪留を取り出し暫く見つめていると、涙が溢れ止まらなくなった。 
幼馴染で親友でもあったトモに最後のお別れをするために、とある海沿いの小さな温泉町に行っていた。 私にとってもその町は故郷だ。髪留めをくれた、トモのお母さんの言葉を思い出した。 

「トモちゃんとずっと仲良くしてくれてありがとう。あの子は、サトちゃんが 
いるから、仕事は大変だけど東京の生活にも耐えられるって、いつも・・・」 
トモのお母さんは、涙でそれ以上言葉を続けることができなかった。 
最後に、この髪留を差し出して、私に告げた。 
「お友達には、あの子の遺品をあげているの。これは、あの子が最後の日に身に着けていたもの。是非、サトちゃんに持っていて欲しいから・・・。」 

ふと、最後にトモと会った晩の光景が浮かんだ。深刻な顔で、彼女が、泣きながら私にしがみついていた・・・。 翌日、彼女は遺体で見つかった。 
トモの死には謎が多い。自室で発見された彼女の遺体は、体中の水分を失い、 
まるで何年も太陽に照らされていたかの様に、衰弱し、干からびていた。 
窓の外は、いつの間にか雷雨になっている。暗闇に一筋の稲妻が走った。

249: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 22:53:48 ID:RJ2v.iIg
トモは、亡くなる1ヶ月前に帰省していた。彼女は小学校の時に温泉町に引っ越してきたが、すぐに彼女の父親が他界した。 トモの母と父の実家とは折り合いが会わず、父親の遺骨は分納されたと聞かされたことがある。
私は、そのとき父親の墓参りに行ったというトモの話しを思い出した。

「お父さんのお墓にいってね、お父さんに仕事とか恋人のことを報告したわ。
で、不意に気が付いたの。墓石をはさんで向こう側に、婆さんがみえたの。
お盆で他にも人はいたけれど、気になったのは、その婆さんが私の方をじぃっと見つめてた事よ。」 私の部屋に休息に来たトモは、小さな巾着袋を
取り出しながら、話を続ける。 「私と目が会うと、すぐにかがんで、お墓の前で、ブツブツと呟いていたわ。」トモは袋の紐を解き、中をまさぐる。

「恐怖雑誌の編集なんてやってるからかしら。職業柄ね、ピンときたのよ。」
得意げに言った彼女は、沢山の白い破片とアン肝の干物のようなものを、袋から取り出し、机に広げた。
「私は婆さんに話かけたの。綺麗な髪留めを手で押さえ、婆さん、ブツブツ言いながら私の顔を見上げたわ。
どこかで見た顔だと思ったら、クラの婆さん。知ってるでしょ?三つ上のクラタよ。彼のお通夜で会ったわ。」
トモが語る。私が怪訝な顔で、机の上の物に手を触れようとするが、彼女は私の手を掴み、話を続けた。
「挨拶をしてお別れしたけど、何か引っかかったのよね。私の名刺を渡しておいたわ。」
窓を眺め、私は一息つく。気が付けば外は雨になっていた

250: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 22:56:54 ID:RJ2v.iIg
新幹線の車窓に雨が滴る。私は静かに目を閉じた。死の前日、必死で私にすがりついたトモは、耳元で何かを囁いた。 彼女の手を握り、頷く私・・。
「分かってたよ。トモ。・・・」私は、再び一ヶ月前のトモの話を思い返した。

トモは興奮していた。「その日の夜遅く私の家に来たのよ。あの婆さんが!私、思わず「ビンゴ!!」って叫んじゃったわ。」
タバコを取出し火をつけて「婆さんは暫く黙っていたけど、意を決し、私に語り始めたの。」トモは続けた。
トモによれば、老婆の話は次のようなものだった。老婆は、トモを心霊等の専門家と思って訪ねてきた。
有名な霊能者を紹介して欲しいと、頼みに来た。
「わしの一族は、代々この呪いを受け継いできたんよ。」老婆は言った。
「けんど、一族の者は皆死に絶え、もう引継先がないんよ。呪いを引き継ぐのが私んトコの
使命だんべの、途方にくれとったんよ。」老婆は、小さな巾着袋を取り出した。

「もう何日も残っとらんのよ!わしの、すぐ近くまで来とる!」
取り乱す老婆をトモは落ち着かせ、詳しく話を聞きたいと申し出た。
老婆は、呪の内容について語り始めた。

「明治時代の初めだったんよ。 この集落の浜辺に大きな黒い二枚貝が流れついての、漁師共がすぐに貝を開いたんよ。食おうと思ったんかの・・・。」
老婆は、お茶をすすって一息ついた。トモには、海の音が異様にはっきり聞こえた
そうだ。まるで、家が海の上を漂っているかのように・・・。

251: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:02:06 ID:RJ2v.iIg
老婆が話を続ける。「二枚貝の中から一枚の紙切れが出てきたんよ。 ほら、神社の裏に祀ってあんべ?」
トモは、小学生の頃遊んだ神社の裏手にある、一枚の額縁を思い出した。 「シノビガタキコノカワキ ウツセニタスクモノナシ コノウエハ ジョウドニテ ミタサレントホッス」 心霊マニアのトモは、暗記していたこの言葉を呟いた。「そんだ。んで、そいつが一緒に入ってたんだんべ?」老婆が袋を指差す。
「そりゃ、あれだ。砕かれた歯と、人間の舌の干物じゃ。」老婆の瞳が少し光った。
「どこから来たんか分からん。けんど、これが流れ着いてから集落のもんが次々と死んだべ?干からびての。
きっと禍々しいもんに違いねぇと、わしのひぃ婆が色んな村に尋ねてまわったんよ。
そんで、御崎郷の神主様がお払いしよったんよ。その後は村人の死ぬ数がへったべ?けんど、完全に呪いを解くんは無理よっての。」
この昔話は、トモも聞いたことがあった。が、呪は解かれて終わる筈だった。

「んで、神主様がひぃ婆に命じんよ。一族で呪いを受け継ぐんさってな?ひぃ婆は呪いのことを色々聞きまわって、
詳しかったで、その一族なら呪いを解く方法を見つけるかも知れんべってな。呪いを拡散させんためには、
生贄が歯の欠片と舌の干物を飲むんじゃって。歯の破片が全部無くなりゃ、それでもええってな。」
トモが袋を開けると、砕けた歯と舌の干物が入っていた。老婆が言った。
「まだ、50個近くもあんべ?戦前は10年周期くらいじゃった。年老いたもんが、進んで引受けたんよ。
けんど、戦後になって周期がどんどん早くなったんじゃ。仕舞にゃ、毎年、引受人を選んどった。
複数はあかんで、一個しか飲めんべ?わしは呪いを調べとったで最後に残されたんよ。
けんど、わしには引継先がないんよ。 解呪の法もわかっとらん。呪いは、わしが死んだら、
また拡散すんべ?また沢山、人が死ぬんじゃよぉ・・・。」

トモは袋を預り、霊能者に渡すと約束したそうだ。
その数日後だった。老婆の干からびた遺体が見つかったのは。

252: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:04:27 ID:RJ2v.iIg
「それがこれなのよ!」私は、トモが興奮を隠せずに言ったのをよく覚えている。

外では雷雨が激しさを増していた。雨粒が次々と現れては糸をひいて消えていく。
ぼんやり窓を眺めていると、車内販売のワゴンが映った。私は、顔色を変えた。
窓に映ったワゴンは、何かが違う。お菓子の代わりに積まれているのは・・・。

トモだ。トモの首、手、足がワゴンにバラバラに積まれていた。口から、紫色の長い舌がだらりと垂れ下がっていた。
私は「んぎぃっ!!」と大声を出し、座席から飛び跳ねた。
ふと我に返った私は、自分に注がれた好奇の目に赤面し、とっさに、「あの、笹団子をください。」と販売員に告げた。

東京駅までは、まだまだ時間があった。私は、トモが死ぬ間際にかけてきた
電話のことを思い出した。断末魔の悲鳴とともに途絶えたトモの声を。

「もしもし、サト?お願い聞いて!!これじゃ、これじゃぁ・・・・・」
絶叫が響いた。後には、電話の向こうでブツブツ呟く、しゃがれた声が聞こえた気がしたが、良く覚えていない。
考えているうちに、私は眠ってしまった。

夢を見た。それは数日前の現実。私は、耳元で最後の願いを囁いたトモを強く抱きしめ、微笑んだ。
大好きな中国茶を淹れた。白い破片と干物を煎じ、お茶と一緒に飲み込んだ。
トモが涙を流し、繰り返した。「ゴメン・・。ゴメンね・・。」
私は、そっと彼女に口付けて言った。「一人で苦しんだんだね。」

そして、トモの手を握り、囁いた。 「分かってたよ。トモ。あの町に代々住む人は皆、知ってる。」
目が覚めた。私は呪いを受け継いでいる。残された時間は少ない。

253: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:07:00 ID:RJ2v.iIg
真夜中に、私は自分のベッドで目を覚ました。外では今夜も雨が降っている。
灯りもつけず、私は、妙に冷静な頭で思考をめぐらせた。
私が生きている間に、呪いを受継ぐ人を探さなくてはならない。
妹のネネとナナ。そして、父の姿が頭に浮かんだ。

母親は幼少に家を出て、その後会っていない。私は首を振った。
家族を生贄に選ぶなど、私にはとても考えられなかった。信頼できる友人を思い浮かべた。
嫌いな人間を騙して飲ませようかと思った。 だが、次の犠牲者を選ぶことなど、とてもできなかった。
苦悩の中、悪魔が囁いた。

「いっそ、呪いなんて拡散すればいい。私の死後何人死のうが、知ったことじゃない。」

呪いの影は、一歩ずつ私に近寄ってきていた。最初は、郵便受けだった。
幾つもの歯型の付いた封筒が入っていた。先週は、玄関のドアノブが変形し、そこに歯型が浮かんでいた。
一昨日は、ベッドの木枠が噛み砕かれていた。

私は、寝汗でべたつく体を流すため、シャワーを浴びることにした。
考えをまとめる助けになるかもしれないとも思った。 服を脱ぎ、湿った浴室へ入る。
鏡に映った自分の姿を見つめた。「まだ生きている・・。生きている・・。」
思わず私の口をついた言葉に背筋が凍り、急いで髪を洗う。目を開けると、呪が私の顔を覗き込んでいる。
そんな不気味な映像が浮かび、目を堅く閉じ、 私は急いでシャワーを済ませた。脱衣所で、髪の毛を乾かした。その時だ。

鏡越しに何かが目に映った。脱衣所の入口から覗く、白く干からびた顔。
私は目を見開いた。口からは、だらりと垂れた紫色の長い舌が、私の背後へ伸びてきている。
私の絶叫が部屋に響いた。私はうずくまった・・・。

暫く後で目を開けた。顔はもうない。突然、声が耳に響いた。

「コノカワキモウ スコシ・・・」。翌朝、私は実家へ向かった。

254: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:09:42 ID:RJ2v.iIg
実家に帰った。ネネとナナ、そして父が私を優しく迎えてくれた。
親友を失くした私を心配し、励ましてくれた。
「いつでも帰って来い。お前の一人や二人、いくらでも世話してやる。」
いつもは寡黙な父が力強く言ってくれた。

「悩みあったら相談してね、彼氏のこととか、仕事の愚痴とか。」
ネネとナナが私の背中をたたきながら笑った。 結局、家族には、呪いのことは話せなかった。
私は、呪いを拡散させる道を選んだ。もう、何も考えたくない。

私は部屋に戻り、荷物をまとめた。家族や友人一人一人に手紙を書いた。
手紙はポタポタと湿っていく。涙で文字も良く見えなかった。やがて、涙も枯れ果てた。
私は、灯りを消してベッドに座り、静かにその時を待った・・。

外から、ズリズリと何かを引きずる音が聞こえ、私は思わず飛び跳ねた。
心臓が止まりかけた。そのまま止まってくれればいいのに。玄関の扉が開いた。

呪いが、私の部屋に入ってきた。その正体を見た私は、意外にも冷静になった。
ズルズルと長い舌を引きずり入ってくる白く乾いた顔。恐ろしく、愛しい顔。
「トモ・・・。」彼女はグルリと反転した目玉で私を見つけ、すぅっと私に近づき、紫色の長い舌を私の口に押し込んだ。

立ったまま、石の様に固まった私は、喉を通る長い舌の感触に身悶えした。
私の体内で、その舌がポンプのように何かを吸い上げている。あっという間に力が抜けて、意識が薄らいだ。
絶望が、私を包んだ。お終いだ。これで呪いは拡散する。私の瞳に、最後に映ったのは、トモだった。
私の水分を吸い取ったのだろう、彼女の顔は、元の張りのある艶を取り戻していた・・・。何も見えなくなった・・・。

トモの言葉が聞こえた。「サト。サトは正しい選択をしたよ。ありがとう。
呪にはもう、拡散する力はないよ。飲み込んだ人から人へと、ただ、受継がれるだけ。」私は安心し、深い眠りに沈んでいった。

256: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:12:32 ID:RJ2v.iIg
私は、闇の中で眠りについていた。不意に、強烈な渇きを覚えた。
急に、暗闇から引きずり出される。私の喉は張り付いて、一滴のつばも出ない。

私は、舌をたらし、喉を掻き毟って水を求めた。ふと、遠くに人間が見えた。
私は近くの木に噛み付いた。水分は吸えなかった。遠くに見える女。あそこへ行けば、水がもらえる・・・。

数日後、私は女の家の入り口に立っていた。
女の姿が少し大きく見えた。また数日後、私は再び暗闇から引きずり出された。
やけ付いた喉が潰れそうだった。今日は、ついに、女の姿が大きく見える所まで近づいた。
手を伸ばせば届きそうだ。 だが、私の手は動かない・・。

「水をください」その一言を伝えたくて、私は、動く部分をとにかく彼女に近づけた。
舌だけが動く。舌を長く伸ばし、必死に女に訴えた。 だが、女は私を救おうとせず、悲鳴を上げて逃げ去った。私は再び闇に引き戻された。

「ドウシテ キヅイテクレナイノ コノカワキヲ イヤシタイ ダケナノニ」
私は、唯一動く舌で暗闇の中で必死に水を求めた。だが、希望は見えている。
「モウスグダ モウスグ ミズヲ モラウコトガ デキル」私は確信した。
苦しみの中に喜びの笑みを浮かべた。

ついにその日が来た。私は女のすぐ近くにいる。渇きを潤すことができる喜びが、私を支配した。
怯えた女が、何か言っている。 大粒の涙を流して。
「私、死体を見たときに気づいたの。」水分がもったいない。水を無駄にするこの女が私は許せない。
「お父さんが、親戚を説得してくれたから。」私は、水をもらう事を諦めた。水の大切さの分からぬこんな女に頼んでも仕方ない。

そうさ。奪い取ればいい・・・・・。

259: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:14:41 ID:RJ2v.iIg
薄暗い部屋。ざわつく風の音。怯える女。

私は紫色の長い舌をのばし、女の口から体内に突っ込ん「破ぁ!!」

突然眩い光が割り込んできた。私は少し後ろに飛ばされた。

そこにいたのは寺生まれで霊感の強いTさんだった。

260: 継呪の老婆 2015/03/13(金) 23:17:49 ID:RJ2v.iIg
「ナニヲスル!!」

「落ち着け!!呪いには拡散する力はない!!」

Tさんが腕をクロスさせるとそこから霧のようなものが噴出された。
「これで大丈夫なはずだ」
その通り、私の体に水分が満たされた。

そうしてようやく、私はここがどこで襲おうとしていたのがだれかがわかった。

「なにをするのですか!!」
そういったのは父だった。
「この呪いには拡散する力など最初からない、だからそんな馬鹿なことは止めろ!!」

そういうとTさんは私に向き直った。
「君や君の友達を苦しめた呪いは、とある陰険な陰陽師が仕組んだものなんだ。
人の浅ましさを利用して連鎖させて、自分の力にしようとしたんだ。」

そんな…と父が崩れ落ちた。

Tさんは例の歯と舌を粉々にし、光弾でそれを青白い煙に変えた。

「君達の恨みは必ず晴らしてやろう。だから君は、しかるべき場所へいこう。」

そういうと、今度は私に向けて光を放った。その光はとても暖かで、優しさと悲しさに溢れていた。

寺生まれって本当に凄い
光のなかでトモや他の皆の元へ向かいながら、私はそう思った。


出典: 【破ァッ!!】寺生まれのTさんスレ