236: 生き人形 2015/03/13(金) 16:47:01 ID:jNiFzGFE
酷く寂れた村の奥に、その家はあった。昔の裕福な家によくある石で出来た大きな倉、今は枯れているが昔は綺麗な水が流れて鯉などか泳いで居たと想像させられる池、大きな平屋建ての家、その中の、鍵のついた真っ青な部屋。
「――ここが、娘が閉じ込められていた"蒼の間"でございます」
老いた案内人は扉の軋む音をゆっくりと響かせて、扉を開けた。




この、とある村のある少女と人形の逸話をネットで知ったのは先月のことだ。文化祭での出し物に煮詰まっていた映画研究会の僕たちは、村が近かったこともあり飛び付くようにこの村を舞台にその逸話になぞらえた映画を製作して発表することを決めた。実話ということもあり、部員のなかには撮影を躊躇う声を上げる人もいたが、事前に十分供養しおけば大丈夫だろうという結論に至った。
村は小さく、過疎化が進んでいたがどうにか案内してくれる人を見つけ、取材することになった。今回はその撮影前のお祓いだ。



蒼の間は重く湿った空気をまとい、室内は薄暗く、案内人が懐中電灯に明かりをつけてやっと周りのものが薄らとわかる程度だった。目を凝らすと、数脚の椅子と何体かの人形があるのは認識できた。床はやけに散らかっていて、懐中電灯の光が反射したことでビー玉や鋏、鎌が落ちているのが分かった。
「さぁ、そこの椅子にお掛けください。まずはこの部屋で起こったことについて、私から説明致しましょう」
案内人が囁くような声で僕たちに説明を始めた。

「― 昭和初期のことでございます。この蒼の間では、流行り病を患った娘が幽閉され、その短い生涯を終えました。娘は生前、友達代わりの人形の百合子やその他の人形達を相手に、お医者様ごっこをすることが唯一の楽しみでした…」
すっ、と案内人が指を指した先には一際整った顔の人形が椅子に座っていた。
「…この子が、百合子です」
柄はわからないが、鮮やかな青い着物の、頭身の大きな日本人形に見える。こんなリアルな人形で、件の少女は遊んでいたのかと思うと、寒気がする。ありえないが、実はつい最近の話でこれが件の少女です、と言われてもこの薄暗闇では納得してしまうかもしれない。それほどその人形は僕に生物の印象を与えていた。
「娘は百合子などの人形たちに、鎌を使った残酷なお医者様ごっこを好んで行っていたと聞きます…この百合子も、服のしたには生々しい傷が―」
その時、百合子が立ち上がったように影が揺らめいた。いや、実際に百合子が立ち上がった…!

「あたら…し、い…かんじゃ、さん…?」
「ひっ!」

驚いて尻餅をついた案内人を百合子は見下ろす。案内人が投げ出した懐中電灯が照らすその顔は、新しい玩具をもらった子供のように嬉しそうな顔で、鎌を拾うと少女のような声で優しく話しかけてきた。
「あなたは、どこがわるいの…?」
「ひ、ひィ…!」
「そっかぁ……目が悪いのね?」
短い悲鳴を上げて逃げようとする案内人を百合子は追い詰め、
「悪い目玉をどうしましょう?」
床のビー玉を拾うと、床にしゃがみこんだままの案内人に目を合わせるようにしゃがむと、ビー玉の光を見せつけるように案内人の目に近づけて、

「この綺麗なビー玉と取り替えてしまいましょう」

歌うように囁くと鎌を振り上げ、勢いよく案内人の目をめがけて降り下ろそうとした瞬間

「そこまでだ」

聞いたことのある声、寺生まれで霊感の強い先輩のTさんが蒼の間の入口に立っていた。
Tさんは百合子の方に両手をかざし「破ァッ!」と叫んだ。すると青白い閃光が百合子を包み、百合子はみるみるうちに生気が抜けていき閃光が消える頃にはただの人形となってその場に崩れ落ちた。
「Tさん、なんでここに?」
「綺麗な人形がお医者さんごっこをしてくれる屋敷と聞いていたんだがな…こんな危ないお医者さんごっこならイメクラいった方がマシだったな…」と呟くTさん。
寺生まれってスゴイ、案内人を起こしながら改めて思った。

終わり


出典: 【破ァッ!!】寺生まれのTさんスレ