171: カシマさん 1/17 (長くてゴメンよ& ◆X2d.sltWFk 2015/03/11(水) 17:32:17 ID:TqGCO16A
時は第二次世界大戦の日本敗戦直後。
日本はアメリカ軍の支配下に置かれ、各都市では多くの米兵が行き交う時代でした。

ある夜、地元でも有名な美女(23歳の方)が一人、加古川駅付近を歩いていた時、不幸にも数人の米兵にレ○プされ、その後殺すにも苦しみながら死んでいくのを楽しむため、体の両腕・両足の付け根の部分に銃弾を叩き込み、道路上に放置したまま立ち去りました。

瀕死の状態をさまよっていた時、運良くその場を通りがかった地元でも有名な医者に発見され、腐敗していた両腕・両足を切り落とすことを代償に、一命を取りとめました。

しかし、自分の美しさにプライドを持っていた女は、生きることに希望が持てず、国鉄(当時)加古川線の鉄橋上へ、車椅子で散歩につれられているスキをみて車椅子を倒し、両腕・両足のない体で体をよじらせ、鉄橋の上から走ってきた列車へ身投げし自殺しました。
警察、国鉄から多くの方が線路中で肉片の収集をしましたが、不思議なことに、首から上の部分の肉片は全くみつからなっかたとのことです。
しかし、時代が時代だったもので、数日経過するとその事件を覚えている者はほとんど居なくなりました。

172: カシマさん 2/17 2015/03/11(水) 17:33:05 ID:TqGCO16A
事件が起こったのは数ヶ月後のある日です。
朝は元気だった者が、何故か変死を遂げるようになってきました。
それも、一軒の家庭で起こるとその近所で事件が起こる、といった具合です。
警察も本格的に動き出し、事件が起こった家庭への聞き込みでは何故か共通点がありました。
それは、死亡者は必ず死亡日の朝に、「昨日、夜におかしな光を見た」と言うのです。
実際に当時の新聞にも記載された事件であり、加古川市では皆がパニックになりました。
加古川署では事件対策本部が置かれ、事件解決に本腰が入りました。

そこである警察官が、事件が起こった家庭を地図上で結んでみると、あることに気がつきました。
なんとその曲線は、手足のない、しかも首もない胴体の形になりつつあったのです。
こうなると当然次はどのあたりの者が事件に遭うか予測がつきます。
そこで、前例にあった『光』を見た者は、警察に届け出るように住民に知らせました。

やはり曲線上の家庭では、「光を見た」と言い死んでいきました。
しかし、実は『光』ではなかったのです。
死者の死亡日の、朝の告白はこうでした。
「夜、何故か突然目が覚めました。
するとかすかな光が見え、見ているとそれはますます大きな光となります。
目を凝らしてみると、何かが光の中で動いているのが見えます。
物体はだんだん大きくなり、こちらへ近づいてきます。
その物体とはなんと、首も両腕・両足もない血塗れの胴体が、肩を左右に動かしながら這ってくる肉片だった。
ますます近づいてくるので、怖くて目を閉じました」
と言うのです。

次からも、その同じ肉片を見た者は必ず死にました。
そこで、次は自分だと予想した者が恐ろしさのあまり、加古川市と高砂市(隣の市)の間にある鹿島神社(地元では受験前など多くの人が参拝する)で、お払いをしてもらいました。
すると、「暗闇のむこうに、恐ろしい恨みがあなたを狙っているのが見えます。
お払いで拭いきれない恨みです。どうしようもありません。
唯一貴方を守る手段があるとするならば、夜、肉片が這ってきても絶対目を閉じずに、口で鹿島さん、鹿島さん、鹿島さんと3回叫んで、この神社の神を呼びなさい」
と言われました。

173: カシマさん 3/17 2015/03/11(水) 17:33:22 ID:TqGCO16A
その夜、やはり肉片は這ってきました。恐怖に耐え必死に目を開いて、「鹿島さん」を3回唱えました。
すると肉片は、その男の周りをぐるぐる這った後、消えてしまいました。
通常、話はこれで終わりますが、やはり恨みは非常に強く、その男が旅へ出てもその先にて現れました。
その後、その方がどうなったかは知りません。

と、普通なら終わるところだと思うのですが、なんと先日この男に直接話しを聞く機会がありました。
先日結婚の報告に行った彼氏の父親こそが、この鹿島さんに憑き纏われた男その人だったのです。
彼氏の家での会食中、ひょんなことから出た鹿島さんの話、高校生の頃の私達に大きな恐怖を与えたけれど、心の隅ではただの都市伝説だと思っていたこの話の当事者に会うとは非常な驚きでした。

不躾だとは思いましたが、少しお酒が入っていたことと、普段聞けないような話が聞けるチャンスに興奮していた私はお父さんに話しの続きを尋ねてしまいました。
「正直なところ私達はこの『男』も鹿島さんに取り殺されたんだろうと思っていました……。
あっ、すみません、失礼なことを……」
「ははっ、いいんですよ。私は元気に生きております。
一人息子も、こうして綺麗なお嬢さんをつれてきてくれましたし」
お父さんは笑顔でそう返してくれる。
『綺麗なお嬢さん』の表現に私は気恥ずかしくなって彼氏と顔を見合わせる。
「それよりも、今だ鹿島さんのことが語り継がれているんだなぁと少し驚いております。
やはり本物が持つチカラというのは時が経っても薄れず、強い臨場感を持ち続けるんでしょうなぁ」
「はい、私達の学校でもかなり話題になっていました。登校を嫌がる子もでるほどに」
「そうですか。私にとってもあれ以上に不可解で恐怖を感じた体験はない。
旅に出るところまでが都市伝説として語られているんでしたね。
驚くことにここまでは私の知っている事実、体験とそう変わりません。
実際に彼女の事件はあったようですし、私が鹿島神社でお祓いをしていただいたことも確かです」
「そうでしたか!」
「こうやって情報が劣化しないこともあるとは、都市伝説というものも侮れませんね。
ただ重要な部分が伝わっていないようですね。そのためただの呪いの話になってしまっている。
体験した人のない人が聞いてもとても信じられないと思い、あまり人には話したことが無いですが……」
そう言ってお父さんは『鹿島さん』の真実を話し始めてくれました。

174: カシマさん 4/17 2015/03/11(水) 17:33:38 ID:TqGCO16A
あの夜、私が初めて光を見た夜には、既に肉片のことは街中の噂になっていました。まだ『鹿島さん』という呼び名はありませんでしたが。
このことは後で知ったのですが、『鹿島さん』という呼び名を持ってきたのはどうやら神社の神主だったようです。
まぁ順序良く話していきましょう。

光を見たものは死ぬ。
ゆっくりと肉片は近づいてきてある夜家にまで辿り着く。
その時に死ぬ。

そういう噂がある中でとうとう私のところへ光がやってきてしまった。恐怖で震えて眠れなかったことを覚えています。
怖くて目を凝らして光の正体を見ることなどとてもできませんでした。
布団を被りながら朝を待ち続けました。
足音……というか這いずる音ですね。ヌチャヌチャと嫌な音がしていました。
それがだんだんと大きな音になってくる。
まさか初めて見た晩に、俺のところまで到着してしまうのか!? と動転していました。
が、その夜はとうとう私のところまでは到達しなかったようです。無事朝を迎えることができた。

恐怖で耳に染みこんでしまった這いずる音はなかなか消えるものではありませんでしたが、周囲が明るくなってきてから改めて耳を澄ますと、どうやらもう嫌な音は聞こえてきていない。
思い切って光っていた方向を見てみると、朝の柔らかな光があるばかりでした。
それを確認すると私は慌てて布団を剥ぎとって両親の寝室へ飛び込みました。

「来てしもうた!俺のところに這いずるもんが来てしもうた!」
眠る両親を揺さぶりながら叫び続けました。
目を開けた両親はもちろん何も見ていないという。
それどころか怖い夢を見てだけと違うんか、いい歳にもなってみっともないといって親父は二度寝の態勢に入ってしまった。
それでも私としては一刻を争う事態です。
今夜には這いずるものが布団にまで入ってくるかもしれない。
そんな私の悲壮な感じがとうとう伝わったのでしょう。母親が親父を説得してくれ始めました。

「あんた、この子がこんなこと言うなんておかしいわ。
町でも這いずるもんのことは噂になっとる。
実際に亡くなった人も何人もおるみたいやわ」
「おれも聞いたことはあるで。会社のもんがいっとったわ。ワシの家は鹿島の近くで大変ですねいうて。
なんやお前それ見てしもうたんか?」
「怖くて見られへんかったけど、ひかりが見えてしもた。それと這いずる音が耳から離れへん」
「ほうか、お前なんか聞いたか?」
そういって親父殿は母親に確認しました。
「いえ、聞いておりません。私は眠りは浅い方ですけど」
それを聞いてやはり信じてもらえないかもしれないと落胆しかけた時でした。
眠そうだった親父が私の顔を真っ直ぐ見て言います。
「夢やないんやな?はっきり聞いたんやな?」
「そうや!夢やない!俺一睡もしてないんやぞ!」
「分かった」
そういうと親父はどこかに電話をかけ始めました。
「ちょっと早いけど朝の支度をしてしまいましょう。あなたも台所に一緒に来る?」
とても自分の部屋に戻る勇気もなかった私は、母親と一緒に台所に行くと朝食の準備を始めました。
居間では親父がほうぼうに電話をかけているようで、ひっきりなしに話し声が聞こえていました。

175: カシマさん 5/17 2015/03/11(水) 17:33:55 ID:TqGCO16A
しばらくすると親父が台所に顔を見せました。
「お前今日会社休め。神社に行くで。
ワシはちょっと着替えてくる」
それだけ言うとさっさと着替えに行ってしまいました。

朝食の席では電話の結果を聞くことができました。
生来、幽霊なんか信じてなかった親父ですから、こういった怪奇現象に直面したところで相談する相手も皆目検討つかなかったそうです。
ところが知り合いの一人に、お祓いのできる神主さんを知ってるAさんがいたと。
Aさんの話では、這いずるもんをみた家は今のところ必ず変死事件が起きている。
光を見てしもたんたら一刻も早くお祓いに行ったほうがいい。
ちょうど何ヶ月か前から鹿島神社に、とても優秀な神主さんが来ているらしい。
その神主さんに頼めばなんとかなるんじゃないか?、とのことでした。

もちろん私としてはこのまま夜を迎えるなんてとてもできません。
そんなありがたい神主様がいらっしゃるならすぐにでも行きたいと思っていましたので、とても安堵しました。
また、どうやら警察でもこの変死事件を追っているようで、光を見たものは警察に届けなければいけないということだったので、そちらの方は母親に担当してもらうことにして、私と父親は朝食を食べ終わるとすぐに鹿島神社に向かうことにしました。

大鳥居を抜けて、広い境内をしばらく歩くと一人の神主さんが掃除しているのに出くわしました。
親父がAさんから電話をさせて頂いているはずだということ、お祓いのできる神主さんに合わせて欲しい事を伝えると、その若い神主さんは優しく微笑み、
「よくいらっしゃいました。私がお電話をいただいた神社生まれのNです。こちらへどうぞ」
とおっしゃると、我々を小さな社に促します。
内心こんな若い神主さんで大丈夫かとも思いましたが、少しお話をさせていただくと、その纏うオーラ、その威厳にすぐに見た目の年齢のことなど気にならなくなっていました。

176: カシマさん 6/17 2015/03/11(水) 17:34:09 ID:TqGCO16A
Nさんが促してくれてた社の中は8畳ほどの小さな部屋で、やはり小さな神棚とちいさな神像が置かれた薄暗い部屋でした。
「今回は大変でしたね」
「神主さん……いったいワシ達はどうすれば!」
早速親父が切り出すと、Nさんは優しげな微笑みをたたえたまま、私に向き直りました。
「今回はお父さんには穢れは憑いていらっしゃいません。ご安心ください。
あなたが光を見たという息子さんですね?」
「はい」
「肉片は……ご覧になられましたか?」
肉片?なんのことだ?
「いえ、見ていません」
「そうですか」
Nさんが俯く。午前中だというのに薄暗い部屋の中では表情を伺うことはできない。

肉片?あの這いずる音のことだろうか?
「あの、光を見てからは怖くて布団を被ってしまったので何も見ていないのですが……。
何かが這うような音を聞きました。
最初は凄く小さくて何の音か全然わからなかったけど……。
それがだんだん大きくなってきて……」
昨夜の恐怖がぶり返してくる。
もう一度あの夜を迎えるなんて怖くてできない!

「そうですね。それが肉片の動く音です」
そう言うとNさんは数カ月前に会った米兵の話、四肢のない体で身投げをした女性の話を教えてくれた。

「自らの体を媒介にして成就した呪いの形です。
今此処で祓い切るのは容易ではない」
「ど、どうすれば!」
「先生、息子は!」
親父は私と同年代ほどの神主さんを、既に先生と呼び始めていました。

「もうかの女性の呪いはあなたへとはっきり向いてしまっている。
今夜も間違いなくあなたの元を訪れることでしょう」
「「そんな!」」
「大丈夫。心配しないでください」
Nさんは、大幣を手にすると立ち上がり、
「今此処で祓えるだけの穢れを浄化してしまいましょう。そのうえで」
「そのうえで?」
助かるならなんでもいい。
その時の私は、あの恐怖から逃れられるならなんでもしようという気持ちでした。
「同じように今夜も部屋で休んでください。
そして彼女が現れたら、3回唱えてください。
『鹿島さん、鹿島さん、鹿島さん』……と」
鹿島さん……この神社の祀る神様の名前だろうか。

「恐怖に感じる気持ちはわかりますが、這いずる肉片から目を離してはいけません。
大丈夫。この祓いと神を呼ぶ声音に依って、絶対に彼女はあなたに手を出すことはできません」
本当はもう二度とあんな思いはしたくないと思っていました。
私のもとにあの這いずる者をこさせない方法はないものかと。
しかし、この徳の高そうなNさんがここで祓えないというのなら仕方がない。
今夜追い払うしかない、そう覚悟を決めました。
「分かりました」
そう返答すると、Nさんはゆったりと微笑み、
「それでは早速祓いを行いましょう」
そう言って祓詞を唱え始めました。
私は正座し目を瞑り、頭を垂れていましたが、私が『分かりました』と返答した時に、Nさんの目が光ったように感じていました。

177: カシマさん 7/17 2015/03/11(水) 17:34:21 ID:TqGCO16A
その夜。
なかなか床につく勇気のなかった私でしたが、それでも日が変わる頃には寝室へ向かうことにしました。
「それじゃあ、行って来るよ。お休み」
両親にそんな奇妙な挨拶をして居間を後にしました。
「あ、あぁお休み。また明日な!」
「お休み。また明日の朝起こしに行くわね」
両親とも不安そうに私を寝室に送り出します。
母親が一緒に寝ようかと申し出てくれましたが、Nさんの話だと狙いを付けられているのは今のところ私だけとのこと。私の部屋にいることで母親まで狙われてはいけないと思い、それは固辞しました。

いつもと変わらない私の部屋です。
今ならテレビを付けっぱなしにしたりしたでしょうが、生憎その当時はそんなものはありませんでした。
気を紛らわせるものもなく、音の出るものといえば鼻歌ぐらいのものです。
私はNさんに言われた文言をもう一度頭に思い起こし床に入りました。

いつ光が見えるか、肉片の這いまわる音が聞こえてくるかと思うとやはり眠ることはできませんでした。
それでも布団からは出ずに悶々としていると、ちょうど丑三つ刻ぐらいでしょうか、昨日とおなじ方向にボゥっと光が浮かんできました。
最初は針の先ほどに小さく、やがて米俵ぐらいの大きさまで大きくなってきます。

ザリ……

ほんの小さな音でしたが、その恐怖の音がたしかに私の耳に届きました。

ザリ……ズリ……

昨日と同じように布団をかぶってしまいたい衝動に駆られましたが、追い払うためには直視しないといけないというNさんの言葉を思い出し必死で光の方向を見続けます。

ザリ……ズリ…… ザリ……ズリ……

光の中にはっきりと蠢くなにかの物体が確認できます。

ザリ……ズリ…… ザリ……ズリ……
ザリ……ズリ…… ザリ……ズリ……

肉片。
それは確かに肉片でした。
四肢がなく、それどころか頭もない、胴体だけの芋虫のような赤黒い物体がゆっくりと這いよってきます。

178: カシマさん 8/17 2015/03/11(水) 17:34:35 ID:TqGCO16A
ザリ……ズリ…… ザリ……ズリ……
ザリ……ズリ…… ザリ……ズリ……

いつの間にか光は消え失せ、部屋の中にはゆっくり進む肉片と私の二人だけの空間になっていました。
赤黒い物体は身を捩らせながら少しずつ近づいてきます。
それは世にも悍ましい光景でした。
きっと私はNさんに『肉片』と聞いていなければ、近づいてくるものが何だかも分からなかったでしょう。
それと同時にこの肉片に成り果てた女性のいきさつを聞いていた私は、同時に憐憫の情も感じていました。
頭部がないのでもちろん表情などうかがい知れないのですが、懸命に這いよるその姿は、彼女が泣いてるようにも見えたのです。

「俺が憑り殺されることで彼女が浮かばれるなら。
……それもいいか」
とそんなことまで無意識で口走っていたかもしれません。

それでもいよいよ布団に届こうかという時に、むっと凄い臭気がしましてね。
その臭いで我に返りました。
ここで俺が死んでも呪いは止まらん、と。
そう思った瞬間にはNさんに教えられた通りに、3回神様の名前を叫んでいました。

「鹿島さん、鹿島さん、鹿島さん」

すると、布団に届こうとしていた肉片が一向に近付いてこれなくなりました。
まるで見えないバリアーで布団の周囲だけが守られているように。

それでも肉片の彼女は身を捩らせてなんとか私に近づいてこようとしています。
進めず、滑るようにして布団の周囲を這い始めました。
私は教えられた通り、その一切を見つめていました。

ゆっくりと布団を3周ほどした頃でしょうか、あきらめたのか肉片の彼女は私に背を向けると、いつの間にかまた光っているところへ帰り始め……やがて光に消えていきました。
光がだんだんと収束し、そして見えなくなると……残っていたのはいつもの私の寝室でした。
あんなに血塗れの体で這いまわっていたのに畳は綺麗なままでした。
しかし、彼女は一番私に近づいた時に感じたあの臭いが、これは夢ではないことを物語っていました。

臭気は気にはなりましたが、それまで張り詰めていた緊張が解かれたからでしょうか、私はその場で寝込んでしまったようで、翌朝両親に起こされるまで夢も見ずに眠り続けました。
起こしに来た両親は布団ではないところで寝転んでいる私を見て、死んでいるかと思ったと後で言っていましたね。

179: カシマさん 9/17 2015/03/11(水) 17:34:49 ID:TqGCO16A
--

私は黙ってお父さんの話に聞き入っていた。
都市伝説として聞いた時ももちろん恐ろしいとは思っていたけど、その張本人が口にする体験談はとんでもない臨場感だった。
ふと横を見ると、彼氏も同じように真剣な顔をしている。
「こんな親父の話……初めて聞いたよ」
私の顔を見てそう呟きました。
「まあな、聞かれてもないのにわざわざ息子に話して聞かせるもんでもないしな。
いつかお前が大きくなって酒でも一緒に呑んだ時には、酒の肴に話して聞かせてやろうと思っていたが」
そういってお父さんは笑います。

ここまでは都市伝説として語られているのとほぼ変わりはなかった。
光からカシマさんが現れること、四肢がないこと(頭までないとは想像してなかったけど)、神社に相談に行ったこと、『鹿島さん』と3回唱えること……。
都市伝説ではこの後もカシマさんに男は追い回されている。でもお父さんは無事に生きて私の目の前にいる。
あ、そうか。
ここまでが本当のことで、この後はもっと怖がらせようとして付いた尾ひれということか。
そう頭の中で分析をしてみた。
きっと当たらずとも遠からずだろう。

「貴重なお話をありがとうございました。長年のもやもやが晴れた気分です」
そうお礼を言ったところ、お父さんは笑いながらこう返してきた。
「はっはっはっ、お嬢さん。まだ話半分といったところですが、もう満足ですか?
都市伝説でも『男』は旅に出るでしょう?」
お父さんは楽しそうに私の顔を見ている。
えっ!? まだ半分?

確かに伝説はまだ続く。
でも男が旅に出て行方が分からなくなってしまうところで終わりだ。
カシマさんも既にはっきりと登場して『鹿島さん』を3回唱える件も終わった。半分どころか八割、いや九割型は終わっていると思っていた。

お父さんが真面目な顔になって私に言う。
「お嬢さん、都市伝説ではこの後、旅に出た男のところにも肉片が現れ、その後の男の行方はしれない。と続くのでしたね」
「そうです」
「更にこの後、こう続く。

ただ非常にやっかいなことに、この話をもし知ってしまうと、肉片が話を知ってしまった人のところにも、いつか現れるというのです。
私(兵庫県出身)が知ったのは高校時代ですが、私の高校では、この話は人を恐怖に与えるためか、迷信を恐れるためか、口に出すことが校則で禁止されました。
この話を聞いた皆さんには鹿島さんが現れないことに期待します。
もし現れたら、必ず目を閉じず、「鹿島さん」を3回唱えてください……。

と」
「その通りです」
「コレがいけない!」
そう言って苦々しそうにお父さんは膝を叩く。
「いけないって何のことだよ」
それまで黙ってやり取りを聞いていた彼氏がお父さんに尋ねる。
「うまくNの呪いだけ残ってるんだよ」
Nの……呪い……?
「しかしNさんとはお祓いをしてくれて『鹿島さん』を教えてくれた神主さんなんじゃ」
「うん、まあ確かにこの時はそう思っていたんですよ。肉片が現れても救ってくれた神主さんだとね」
お父さんは苦々しげな表情を崩さない。
「では、残りの半分。知られていない『鹿島さん』の真実をお話しましょう……」

180: カシマさん 10/17 2015/03/11(水) 17:35:04 ID:TqGCO16A
--

無事に朝を迎えることが出来た私達一家は早速神社にお礼に向かうことにしました。
昨日と同じように母親は警察署に報告に向かい、父親と私でご挨拶に行きました。
とても広い境内ですが、昨日の小さなお社にまっすぐ訪ねて行きました。

「おや、いらっしゃいませ。ご無事で何よりです」
一人祈祷をあげていたNさんは振り向くとそういって、昨日の優しい微笑みを見せてくれました。
「昨晩も彼女は来たみたいですね」
「はい。でもNさんが教えてくれたとおりにしたところ、私には近づけず光の中へ帰って行きました」
「それは良かったです。しかしやや穢れがあなたに移っているようですね。
念のため祓っておきましょう」
そういってNさんは再び私達のために祈祷をして下さいました。

「うん、もう大丈夫でしょう。
今夜からはきっとぐっすりと眠ることが出来ますよ」
「ありがとうございます!」
「先生、ありがとうございました!あのコレ……ワシはこういう相場とかは分からんで些少とは思いますが」
そういって親父はどこから工面してきたのか、薄いとはいえない封筒をNさんにおずおずと差し出した。
「これはありがとうございます。
ありがたく納めさせて頂きます」

私達は二晩に及んだ『カシマさん』の襲来から解き放たれ意気揚々と帰路につきました。
家では報告の済んだ母親が昼ごはんを作って待っていてくれました。
全てが済んだことで気が楽になっていたのでしょう、父親が昨夜の話しを聞きたがりましたので、顛末をもう一度話すと、両親共に怖がったり驚いたりはしましたが、終始笑顔で話を聞いてくれました。
やっと日常を取り戻せたことで私自身も解き放たれたように感じたことをよく覚えています。
睡眠不足の私はいつもよりも早く床につきました。

その晩、異変に気付いたのはまず『臭い』でした。
寝ぼけながらも忘れられないその臭いに目を覚ました私は、今一度臭気に神経を集中しました。
勘違いではなさそうです。
間違いなく肉片の彼女の臭いが漂ってきます。
恐る恐る目を開けたその時でした。

181: カシマさん 11/17 2015/03/11(水) 17:35:18 ID:TqGCO16A
ズチャアァ!

肉片の彼女が今まさに私に乗りかかろうとしています!
慌てて飛び起きた私は布団を跳ね除け叫びました。

「鹿島さん!鹿島さん!鹿島さん!!」

肉片の彼女はやはり苦しそうにもがきます。
恐ろしいにもかかわらず、やはりそののたうつ肉片は悲しそうに見えました。
ただ昨日より彼女が近づいたところで周回しているからでしょうか。
昨晩よりすこし大きくなってるな、と思ったのを覚えています。
私に近づけない肉片の彼女は、切なそうに私の周辺を這いまわった後、名残惜しそうに光の中へ消えていきました。

すっかり光が消えて夜の静寂が戻ってきた時、私はもうガマンできずに両親の寝室に飛び込みました。
「で、出てしもうた!また肉片出てしもうた!」
叫びながら扉を開ける私に両親の顔も青褪めます。
そのまままんじりともせず3人で朝を迎えました。

夜が明けると同時に私達3人は鹿島神社に急行しました。
まだ薄暗く朝焼けの残る中、重苦しい空気の私達は無言で歩き続けました。

「Nさん!Nさん!」
早朝ではありますが、境内には既に巫女様や斉員様が朝の掃除に出てきておりましたので、遠慮なくNさんの小さなお社の扉を叩きました。
いや、遠慮など感じている場合ではありませんでした。
一昨晩終わったはずの肉片の彼女の呪いがまだ続いていたのですから。

「Nさん!Nさん!」
いくら扉を叩いても応答はありません。
親父は「失礼します!」と言いながら扉を開け放ちました。
まるで時が止まったような静寂で薄暗い部屋があるばかりで、そこにNさんの姿は見当たりませんでした。

「親父!Nさんも寝泊まりはココでしてないんかもしれん。社務所で聞いてみようや!」
「そうやな、よっしゃ!」
そう言って社務所へ一目散に向かいました。
振り返った時、今思えば母親がおかしなことを行っていましたが、その時はNさんを探すのに必死で全く気になりませんでした。
「……嫌な部屋……」

「おらんってどういうこっちゃ!昨日もその前も祈祷をあげてもろて、祈祷料も納めよんぞ!!」

父親の怒号が社務所に響きます。
「落ち着いてください」
メガネをかけた神職の方が優しく諫めます。
しかし私も納得がいきませんでした。
「しかし昨日は確かにいらっしゃいましたよ!本当に祈祷も挙げていただきましたし、この神社で祀る神様の名前を呼べとも言われました!」
「そう申されましても、この神社には『神社生まれのNさん』という神職は在籍しておりません。
また、当神社では禰宜が祈祷を挙げさせていただくこともございますが、宮司の耳に入らないところでは行われません。
今おっしゃったような『肉片』に纒わるご祈祷が行われた記録はございません」

その後も私達は食い下がりましたが、メガネの神職さんは知らないの一点張りで話しにもなりませんでした。
まるで狐に摘まれたような気分で社務所を後にしました。
それでも諦められない私達は帰りにもNさんの小さなお社に寄りましたが、やはりそこには静かな空間があるばかりでした。
その時母親が手で顔を覆いながら言います。
「ここ、本当に嫌やわ」
「嫌って?」
「臭いというか……、空気感がダメやわ。もう今日は一旦帰ろう」

182: カシマさん 12/17 2015/03/11(水) 17:35:33 ID:TqGCO16A
「なんや、一体どうなっとるんや!?」
家に帰ると親父が怒鳴りながらネクタイを乱暴に外す。
私としても何が起こってるのか全く分からなかった。
確かに昨日は鹿島神社にNさんはいた。祈祷も上げてもらったし、『鹿島さん』を教えてもらったのも間違いない。
連日の肉片の彼女の襲来と、突然存在しなくなってしまった神社生まれのNさんに何が現実なのか分からなくなっていた。
「あの、あんた。そのNさんを紹介してくれた方にもう一度お電話してみたら?」
「おぅ、そうだな!あの神主さんを紹介してくれたAに連絡入れてみることにしよう!」

そこでもう一つの狐が出てきてしまった。
親父がA氏に連絡をすると、『そんな話は知らない』という。
それどころか親父が電話すると、『久しぶりだなぁ。何年ぶりや、お前が俺に電話してくるんは』と言われたという。

「なんや……、どうなっとるんや……」
親父は俯いてへたりこんでいる。
「あんた……」
母親は親父の方に手を添えて、心配そうに親父と俺の顔を交互に見ている。

悩んでる間も時間は過ぎていく。
……。

「親父もおかんも昨日もおとといも何も見てへんし、聞いてないんやろ?」
「見てへん。あんたは?」
「ワシもみてないわ」
親父のところにも母親のところにもあの肉片の彼女は来ていない。
来る気もないみたいだ。
どういう理屈かはわからないが、狙いは俺だけ……ということだろうか?
……。
おそらくそうだろう。
俺だけが狙われているんだろう。
……それなら!

183: カシマさん 13/17 2015/03/11(水) 17:35:46 ID:TqGCO16A
「親父。おかん。
悪いけど俺しばらく旅に出るわ」
「「え!?」」
「多分やけど……、あの女は俺だけを狙ってるみたいや。警察では家の位置がどうこう言うてるみたいやけど、親父もおかんも二晩とも見てないとなると、多分俺が目的なんやないかと思う。
それでもできれば二人には今晩は叔父さんのところに念のため泊まってもらって、俺だけ遠くまで行って見たいと思う」
「あんた。もしかして自分がその変なもん連れてこうとか思ってんのか!?」
母親が泣きそうになりながら大きい声を出す。
こんな母親を見るのは初めてかもしれない。
「そういう気持ちも少しある。カッコつけるとな。
でもこのままあの部屋で寝るのは怖いゆう気持ちもある」
「あんた!なんとか言うてえな!」
母親が親父の方を掴んで揺さぶる。
親父が顔を上げる。
「お前の気持ちは分かった。
お前一人がなんでこんな思いをするのか分からんが……、なにもしてやれんで悔しいが、このまま夜を迎えたくないいう気持ちも分かる。
行って来い」
「あんた!」
「ただな、連絡は欠かすな。
あとワシはこのまま家に住む。そんな訳の分からんもんのために家、取られたくないわ。
ただ、お前は念のためお姉さんのところ寄らせてもらえや」
そういって母親は避難させようとする。
家を取られたくない、親父は本当はそんなことは考えていないのだろう。
家にいることで私から自分に狙いが移ればいいと思って言ってくれてるのが分かった。

「よっしゃ!そうと決まれば出発は早いほうがええやろ。遠くまで行けるからな」
「そうやな。とりあえず東京の方へ向かってみるわ」
「じゃあちょっと待って。お弁当作るから」
母親は慌てて台所へパタパタと向かっていった。

184: カシマさん 14/17 2015/03/11(水) 17:36:00 ID:TqGCO16A
ガタンゴトン。
俺は夕刻前には電車に揺られていた。
できるところまで逃げてみよう。
あの肉片の彼女が届かないところまで。
あの肉片の彼女が気づかないところまで。


すっかり日が暮れてからも私は電車に乗り続けていた。
電車の動く限り遠くへ行きたいと思っていた。
母親はちゃんと避難してくれただろうか?
親父は一人で大丈夫だろうか?
勢いで飛び出してしまったが……もし私の考えが間違っていたらどうだろう。
あの時は根拠のない確信を持っていたけど……。
俺のことなんてどうでもよく……『家の場所』が重要だとしたら……。

考えれば考える程分からなくなってくる。
どっち?
俺?
家?
分からない。
分かるはずもない。

駅についた電車を俺は飛び降りると公衆電話に走った。

プルルルル
「はい、もしもし」
「親父!無事か!?」
「おー、お前か。無事に決まっとるやろうが。まだ9時前やぞ」
そうか。
アタリマエのことだ。まだ肉片の彼女が来る時間じゃない。
「そんなことよりお前はどこまで行ったんや?」
「分からないけど……とりあえずずっと電話に乗っとったわ」
「宿は決めたんか?」
「いや、まだや」
「そうか、もう遅いからそろそろ宿も決めたほうがええぞ。土地勘のないところでは暗いとこ歩きまわっても分からんからな」
周辺も見回す。
なにも考えずに降りた駅では会ったが、そこそこ栄えてるところのようだ。
旅館の看板も目にはいる。
「そうするわ。旅館ありそうだから今夜はこの辺に停まるわ。おかんは?」
「しぶしぶだがお姉さんの家に送ってったわ。母ちゃんと別々に寝るのも十年ぶりじゃ!ガッハッハ」
親父が無理して明るく振る舞おうとしてくれている。
俺も沈んだことばかり行っていても仕方がない。
親父の笑い声を聞いたら何かが吹っ切れたような気がした。
「そうか。精々一人を満喫してくれや!」
「おう、そうするわ!」
まだどちらに肉片の彼女が来るのかは分からなかったが、さっきまでの暗い気持ちは吹きとんでいた。

結局俺は公衆電話から見えた宿に泊まることにした。
ひどくボロい旅館だったが、何泊の旅になるかもわからないし、贅沢ができようはずもない。
素泊まりで通された部屋は、古い小さな一間だけではあったが、掃除は行き届いているようで十分満足できた。
半日電車に揺られているだけだったが、精神的に張り詰めていたからだろうか、おかんの弁当を食べ終わり、親父に電話で宿の名前と電話番号を告げると、すぐに寝てしまうことにした。
このまま目が覚めたら朝になってたら……。
すっかり疲れきっていたのだろうか、慣れない部屋にもかかわらず、俺はすぐに眠りに落ちていった。

185: カシマさん 15/17 2015/03/11(水) 17:36:21 ID:TqGCO16A
……。

…………。

……………………。











ザリ。





「!」



ザリ……ズリ……


目を開けると光の穴が目にはいる。
中心には見慣れた血塗れが這っている。

「やはり俺が狙いやったか……」

こんな所まで追われた残念さと、親父とおかんが狙われずによかったという安心感が同居していた。


ザリ……ズリ……
ザリ……ズリ……

光からすっかり体を出してくる。
「はっ!?」
逆にこんな離れてしまって、『鹿島さん』の呪文は聞くのだろうか?
急に姿を消したNさんへの不信感もあったが、今は『鹿島さん』だけが頼りだ。

いや、待てよ。
こんなゆっくり這ってくる奴やぞ。いくらでも逃げれるのとちゃうか?

そう思い着くやいなや俺は肉片の彼女に背を向け廊下への扉に飛びつく!
「! ノブが回らない!」
ガチャガチャ!
ガチャガチャガチャガチャ!!
「あかん、開かん!」
ドアと格闘している間に肉片の彼女はジリジリと近づいてくる。

ガチャガチャ!
このままでは追いつかれる!
思わず目を閉じる!

「鹿島さん!鹿島さん!鹿島さん!!」

ザリ……ズリ……
ザリ……ズリ……

這いよる音は止まない!

ザリ……ズリ……ザリ……ズリ……
ザリ……ズリ……ザリ……ズリ……

恐る恐る目を開ける!
目の前に肉塊が迫っている!!

もうダメだ!
鼻腔が臭気で充満する。
肉塊が捩りながら身を起こす。
切断された首の上にうっすらと顔が浮かんでいる!?

ドチャッ!

肉塊が俺に寄りかかる!
「……でしょ?あ……あ……ま」
肉塊がなにか囁いている!?
「……でしょ?あ……あ……ま」

「なんだ。なんで俺なんだ!なにを言ってるんだ、お前は!?」
肉塊がのしかかる。


「知ってるでしょ?あたしの頭」

186: カシマさん 16/17 2015/03/11(水) 17:36:37 ID:TqGCO16A
その時だった。

パリーン。
「破ァァァァァァァァッ!!」

窓ガラスの割れた音がしたかと思うと、何者かの雄叫びが聞こえる。
同時に狭い部屋が青白い光で満たされていく。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」
肉塊の断末魔だろうか?
この世のものとも思えない悍ましい絶叫が轟く!

一瞬の出来事だった。

はっと気が付くと青白い光は消え、暗い宿の風景に戻っていた。
びゅーーー
割れた窓から風が吹き込む。

「危ないところだったな!」
部屋の真ん中に陣取る見慣れない人物から声をかけられる。
見回すと肉塊の彼女の姿はもうなくなっていた。
「あ、あなたは……?」
「俺は寺生まれのTってんだ!遅くなっちまって悪かった」
た、助けてくれた? ということだろうか?

「西の方でなんか嫌~~な気配を感じててな。今夜にも浄化してやろうと思ってたら、こんどはこっちから臭いがするじゃねぇか。こりゃいけねぇとおもって急いで走ったんだが、ギリギリだったな!」
走った!?俺が電車で半日掛けてきた距離を!?
「とにかくもう大丈夫だ!Nの野郎とんでもねぇもんこしらえてやがったな。
お、そうだ!お前さん、Nとは会ったのかい?」
「Nとは……神社生まれの神職のNさんのことでしょうか?」
「けっ、あの野郎、今は神職とか言ってやがんのか!?」
「い、いえ、ご祈祷を上げていただいたので、俺が勝手に神主さんだと……」
「へっ、今のあの野郎は神社を護る神主でも神職でもねぇ!
ただの拝み屋で呪い屋のNよ。
それで!?Nの野郎は今どこにいやがる!?」
「それが、昨日までは鹿島神社でご祈祷を上げていただいたのですが、今日になっていなくなってて……。神社の方も所在を知らないっていうか、Nさんそのものをご存じなかったみたいで」
「ほう」
「それで、今夜はここまで逃げてきてみたってわけです」
「ほう、それは難儀だったなぁ。あの娘にも悪いことをしちまった」
「あの娘……とは?」
「なにってオメェ、お前ンとこに現れてたあの女の子だよ。
首も手足も切られちまってたけどちゃんと体は女の子だっただろ?」
とてもそこまで気が回らなかった。
「すみません、分かりませんでした……」
「まぁそりゃー仕方ねぇわな。普通は恐怖で見が竦んじまうもんだからな。
それはそうとお前、あの娘を恨まないでやってくれな」
「と、言いますと」
「ありゃーお前、あの娘の怨みじゃねぇからだよ。あの娘の怨みはとっくに晴らされてる」
「怨み……」
「おう、そうよ。お前も乗りかかった船だし、十分怖い思いしたしな。一応知っとく権利はあるだろうから話しておくか」

そう言って寺生まれのTさんは訳のわかっていない俺にいろいろと説明をしてくれた。
米兵の起こした事件はNさんの言った通り本当に起こった事件だったこと。
やぶ医者に引っかかって身投げをしたのも本当だったこと。
ここからが以前神社の社で聞いたNさんの話とは違ってきていた。

「おそらく身を投げた時、車椅子を押していたのがNだ。
Nは呪いの素体として娘に目をつけていたんだろうな。
どう言いくるめたのか分からなねぇが、とにかく娘に身を投げさせた。
おそらく米兵に復讐したくないかとか言ったんだろう。
米兵に犯され、四肢までも失った娘さんには甘い言葉だったろうな。
本当にNの言うとおりに身投げをしちまった。
新聞には載ってねぇが、この米兵はその翌々日に死んでるよ。
訓練中にわざわざ実弾を発砲している中に飛び込んでいったらしい。
ま、あんな事件起こしゃぁ自分に返ってくるのは仕方ねぇとこだ。
だがな。Nの呪いの道具にされた娘の悪夢はここで終わらなかった。
復讐を果たしたにも関わらず成仏できなかったんだ。
それからはNの式鬼として駆り出されるようになっちまった。
もう何人かやられちまった後だったが……お前さんには間に合ってよかったよ!」
そう言って寺生まれのTさんはニカッと笑った。

「とにかくそういうことだからよ!お前はあの娘を怨みに思うんじゃねぇぞ!
あ、あと、明日はちゃんと家に帰れよ。ご両親が心配してるだろう!
じゃあな!!」
親指を立てたTさんはもう一度ニカッと最高の笑顔を見せると割れた窓ガラスを飛び越して夜の闇に消えていったんだ……。

187: カシマさん Last 2015/03/11(水) 17:37:07 ID:TqGCO16A
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「……これが、あの都市伝説の真相です」
私はお父さんの話してくれる『鹿島さん』の真実を聞いて涙を流していた。
ただの怖い話じゃなかったんだ。
そんな悲しい事件があの都市伝説の裏に隠されていたなんて。
「私は夜が明けるとすぐに家に戻りました。
あまりに早い帰宅に覚悟を決めて見送った親父にも馬鹿野郎なんて頭を叩かれましてね」
「親父、それからは本当にもうその『カシマさん』は出てこなかったのか?」
「彼女は『カシマさん』なんて名前じゃないよ!」
お父さんが激昂する。
「す、すまんな。急に大きな声出して。お嬢さんも申し訳ない」
「い、いえ」
「しかし。彼女の名前は『カシマさん』なんかじゃないんだ。
カシマさんとはNが残した呪いの言葉だったんだ。
どういう理屈で式鬼を育てるのか、どういう理屈で呪いを増幅するのか、鹿島神社の神様の力を利用としていたのかどうかは私にはよく分からない。
しかし私と私の親父にしたあのお祓いも怪しいもんだと今は思っている」
「その後Nさんは……」
お父さんは首を振る。
「見つかっていない。それから肉片の彼女ももう私のところに姿を見せることもなくなった。
今思えばまるで夢の中の出来事のようだよ。
ただ、先ほどのお嬢さんの話で確信したよ。
まだこの呪いは生きている。
口々に人から人へ『呪いの話』として伝えられることでNはその恩恵を受けているだろうとね」
私はなんて愚かだったんだろう。
実際に起こった事件だと思いながら、被害者が確実にいる事件にもかかわらず、とりあえず怖がりながら、面白おかしく伝聞していく一人になっていたなんて。

「お嬢さん」
お父さんは優しく微笑む。
「私はお嬢さんたちを責めているわけではないよ。そんな呪いなんてものが現実にあるなんて思えという方が無理だ。実際体験した私だって半信半疑だったところはあるからね。
これからだ。これから慎めばいいんだよ」
「はい……。わかりました」
私は涙を拭う。
もう『カシマさん』なんて呼ばない。
小さな力だけど、私からだけでもNの呪いを薄めていこう、と心に誓った。

「しかしさー、親父が自分でも言ってたけどまるで夢みたいな話だな。呪いのNとか寺生まれのTさんとか」
「確かにな」
「本当に夢でも見てたんじゃないの?」
親子の気安さで彼はお父さんを茶化す。
「いや、本当に夢ではなかったよ。寺生まれのTさんは確実に存在した。
そして私を救ってくれたんだ」
「でも夢じゃないって証拠もないんだろ?」
「いや、翌日家に帰って、肉片の彼女に追いかけられる心配がなくなったと思ってるところにな、
郵便屋さんが来て一通の速達を渡していったんだ」
「それで?」
「それにはびっくりするような金額が記入された請求書が入っとった。
Tさんが光弾を撃った時なんだろうなぁ。
窓ガラスだけじゃなく、古い旅館の土台から逝ってしまったみたいでな。
その目玉の飛び出るような請求書を見て私の親父がポツンとつぶやいたよ。

寺生まれってハンパねぇなって」


出典: 【破ァッ!!】寺生まれのTさんスレ