3: 青いネックレス 1/10 2015/03/02(月) 17:20:06 ID:/sxxuDok
ある日、女子高生のA子さんは友達のB子さんに、B子さんが東北地方への温泉旅行で買ってきたという不思議な「ネックレス」を見せてもらう。何の宝石かは分からないが、それには青白い光を放つ石がついていて、B子さんはとても気に入った様子で、A子さんに自慢してきた。
そしてその日から、B子さんは毎日この「ネックレス」を身に付けるようになった。

しかし、それから何日か経つと、B子さんは急に学校に来なくなってしまう。心配したA子さんがB子さんの家にお見舞いに行くと、B子さんは「何だか、金属アレルギーになってしまったみたい。」と語り、よく見るとB子さんの「ネックレス」をしている周りの皮膚が炎症を起こしており、所々皮が剥けている部分もあった。A子さんは心配に思ったが、「大丈夫、そのうち治るから。」というB子さんの言葉におされ、学校でB子さんの回復を待っていると約束を交わした。
しかし、その後もB子さんが学校に来ることはなかった。

それから一ヵ月ほど経ったある日、B子さんから「うちに来てほしい」とのメールが届き、A子さんはすぐにB子さんの家へと向かった。A子さんがB子さんの家に着くと、そこには完全に変わり果ててしまったB子さんの姿があった。ガリガリに痩せこけた体、ほとんど抜け落ちてしまった髪の毛、それに皮膚も黒っぽく変色している。
驚いて言葉も出ないA子さんに、B子さんは震える手で「これを受けとって欲しいの…。」と言いながら、あの青白く光り輝く「ネックレス」を渡してきた。「もう私にはいらないから………。」
か細い声でB子は言うと、A子さんにネックレスを押し付けた。
「ごめんね、少し寝るね。
必ず……大好きなA子ちゃんに持っててほしいから必ず持って帰ってね……」
そう言ったきりB子さんは目を閉じてしまった。

4: 青いネックレス 2/10 2015/03/02(月) 17:20:59 ID:/sxxuDok
B子さんから「ネックレス」を託されたA子さんは少し気味が悪いな、とは思ったが、不吉に思うなんて闘病しているB子さんにも失礼な気がしていたし、何よりも正直ちょっとだけ羨ましいと思っていた「ネックレス」が手に入って浮かれた気持ちも半分あったので、裸で持ち、失くしては大変だと思い、早速首からぶら下げて帰路についた。

光にきらきらと反射する青い石はとてもキレイで、A子さんはもう不吉に感じていた気持ちは吹き飛んでいた。
胸元の青い石を見つめていて、うっかり向かいから来る人たちとぶつかりそうになってしまうほど夢中だった。

「あ、ごめんなさい。よそ見していて……」
A子さんはそう言うと体をさっと左に躱す。
「あ、大丈夫っすよ!こちらこそ大男が二人も広がって歩いてすみませんっす!」
袈裟を来たお坊さんに、十字架をぶら下げた神父さん、それにおみくじ売り場にいそうな巫女の女の子という珍妙な3人組が横を通り過ぎて行く。

「……T。見たか?」
「おう、見たぜ。ありゃー良くねぇなぁ」
「え、K様、T様、一体何のことっすか!?」
「かーっ!!Jちゃんもまだまだだなぁ。破ァ~、いつでも注意をいろんなとこに向けとかないとだめだゾ!」
「はいっ!精進しまっす!!ところで良くないものとは……?」

「お嬢さん」
A子さんの横を通り過ぎた神父の格好をした男が呼び止める。
「は、はい?」
突然話しかけられたA子さんは不審そうに返事をした。
「大変不躾な質問をさせていただきますが……、その「ネックレス」はどちらで?」
「ネ、ネックレス……ですか?」
初対面の見知らぬ神父に何故身につけているネックレスのことを聞かれないといけないのか、という疑問が頭を過るA子さんだが、問いかける神父の方はA子さんをジッと見つめて目を離さない。

5: 青いネックレス 2/10 2015/03/02(月) 17:21:34 ID:/sxxuDok
「そのキレイな青い石のネックレスです。どちらで?」
そう言いうとなお一歩近づいてA子さんの顔をジッと見つめる。
「……」
A子さんはこの時すでに走って逃げ出したい気持ちにかられていた。

「破ァ~、おいおいKさんよぉ。本当にお前は不躾だなぁ。お嬢さんに対してそんな訊き方はねぇだろう」
神父の背後からニュッと顔をのぞかせたと思うと、今度は袈裟の坊さんがA子さんの正面に立つ。
中腰になると「ネックレス」の10cmぐらいまで顔を寄せる。

「これ。キレイだなぁ」
「は、はい。ありがとうございます……」
「このネックレス。最近貰ったもんだよなぁ」
「!」
A子さんは顔をひきつらせる。
「な、なぜそんなことを……」
何故坊さんがさっきB子さんに貰ったことを知っているのか、何故そんな質問を見知らぬ神父と坊さんにされなければならないのか、という思いが一つの質問として飛び出す。
「お友達に貰ったの?それとも知らない誰かからのプレゼント?」
ネックレスから目を離し顔を上げた坊主の男は、笑顔を見せながら質問を続けた。

男の笑顔を見ただけで何故かA子さんはさっきまで感じていた不信感が吹き飛んでしまったそうだ。
素直に男たちの質問に答える気になっていた。

「……友達……からです。ついさっき……貰いました」
坊主の男は難しい顔をすると、
「そぉかぁ、お友達かぁ」
と呟くと坊主頭を撫で上げた。

「T様、この石……」
T様と呼ばれた坊主は頷くと、再びB子さんに向き直る。

「破ァ~、お友達ってことならちょっと言いにくいんだけどよぉ。
このネックレス、アンタへの『呪い』が込められちゃってるわ」
「の……の、呪い……ですか……?」
Tさんの突拍子もない一言にA子さんは固まる。

6: 青いネックレス 4/10 2015/03/02(月) 17:26:54 ID:/sxxuDok
「そぉなんだよ。残念なんだけどさ。
これはまだ生霊だな。
これをくれたお友達って今病気してるよな。今にも亡くなってしまいそうなほどの」
「!」
きっとちょっと前までお友達が身につけてたネックレスだったはずだ。
それを病に臥せっちまったもんで、アンタにプレゼントとして寄越した。そうだろ?」
「!!!」
A子さんのついさっきの状況を見て来たようにピタリと言い当てる坊主のTさん。

「「「それに」」」
坊主と神父と巫女の女の子3人が同時に声を出す。
「お!?Jちゃんも、もう分かった?」
「もちろんです。兄様のですから……」
そう言って一瞬悲しそうな顔を見せた、Jちゃんと呼ばれた少女はA子さんにこう質問した。

「きっと、お友達は旅行か何かで東北に行って、このネックレスを購入してきたはずです。どこかの神社で」

「!」
確かにA子さんはB子さんにそう聞いていた。

『温泉旅館の近くの山道を登ったところに歴史の有りそうな神社があってね。そこで……』

「残念ですが、このネックレスには2重、いや3重の呪いがかかっていると思われるっす。
信じて欲しいっすが、今!直ちに!これを外したほうがいいっす」
A子さんは目をパチクリさせる。
この時、突拍子もないことではあるが、とても嘘を言っているとは思えないと感じたそうだ。

7: 青いネックレス 5/10 2015/03/02(月) 17:27:26 ID:/sxxuDok
「Jちゃん、3重まで見抜くとは素晴らしいですね」
「破はっ!Jちゃんも成長してるってことよ!
それじゃあJちゃん、このお嬢さんに3重について説明してやってくれ。ただ今すぐ外せって言っても納得しにくいだろ」
「了解っす」
Jちゃんは再びA子さんに向き直る。

「一つはその神社の神主……実は私の兄様なんですが、兄様の呪いがかかっているっす!このネックレスをして亡くなった方を眷属として呼びだそうとする魂胆だと思います。生前から呪いを掛けていたほうが式の力が高まりますから」
「……」
A子さんの知らない単語が続々と出てくる。
「次に……これは直接呪いとは違うんですが、効率よく呪い殺すために、なにか良くない『石』が使われているようです」
「よくない……石ですか?」
「はい、そうっす!青くてきれいな石ではありますが、これは石自体が良くないはずっす!呪いがなくてもヤバい気配がプンプンっす!」
「ヤバい……石……」
A子さんは病床に臥せるB子さんの姿を思い浮かべる。
説得力は十分だと感じた。

「最後に……これは兄様の呪いとは全然関係ないと思うのですが……」
最後の呪いの説明だけJちゃんは言い淀む。
何か言いにくいことを言おうとしているのだろう。
ただ……、A子さんにはこの時Jちゃんが何を言おうとしているのかを既に察していた。

8: 青いネックレス 6/10 2015/03/02(月) 17:27:57 ID:/sxxuDok
「B子さんの……、お友達の呪い……なんですね……」

「ほう」
神父さんが感嘆の声をあげる。
「破ァっはっは!大したもんだ。
その通りだぜ、残念だがお友達は自分の石で呪いを連鎖させようとしちまった。Nの呪いも何も関係ないところでな」
豪快に笑い飛ばしながらTさんが後を繋ぐ。
と思いや真面目な顔をすると、
「でもな、お嬢さん。急速にNの呪いと石の力で命が弱まっていく中での出来事だ。
だからこそお友達の呪いの力がかなり強く入っちまってるが、お友達を許してやってくれるかい?」
A子さんにはB子さんを怨みに思う気持ちはもうなかった。
なんだかこの3人の近くにいるだけでそんな黒い気持ちが浄化されていくような不思議な幸福感があった。

「はい。もちろんです」
ハッキリとした口調で、A子さんはTさん達をまっすぐ見つめてそう言った。

「破ァっはっは!よし、偉いぜ!
となると次は後始末をしなきゃなんねぇな」
「とにかく早くそのネックレスを外したほうがいいでしょう。できれば手にも持たないほうが良い」
そう言ってKさんが手を差し出す。
A子さんは慌ててネックレスを外すとKさんの白い手袋の上にネックレスを渡した。

「アーメン」
Kさんがそう言うとネックレスを握った手が、微かに発光しているようにみえた。

「この状態なら大丈夫。ただどこかで調査する必要がありますね」
「そうだなぁ、俺達は全員科学者ではないからなぁ。まぁこのまま破ァして壊しちまってもいいが、Nの手の内を識るためにも調べておきてぇなぁ」
「そ、それなら!」
A子さんが慌てて口を挟む。

9: 青いネックレス 7/10 2015/03/02(月) 17:28:28 ID:/sxxuDok
「親戚のおじさんが宝石店をやってるんです。石の事詳しいから……調べてもらえると思います!」
「お、そうか!それは助かるぜ!」
「では私がネックレスの方を担当します。TとJちゃんは……」
「おう、そっちは任せとけ!」
「任せて下さいっ!」
「呪いを掛けて生霊飛ばしまくってるお友達をちょっと助けてくるわ!
逝くぜッ、Jちゃん!」
「はいっ!T様っ!」

そう言い残して二人は颯爽と消え去ってしまった。
……。
あの二人。
B子さんの家は分かるのだろうか?
そんなA子さんの表情を見抜いたのか、KさんがA子さんに説明した。

「心配ありませんよ。これだけ呪いの力があって、これだけ近ければ迷わず二人は着きます。
ほら、あそこに見えるマンションの7階でしょう?」
そう言ってKさんはB子さんのマンションを指さす。
と同時にB子さんの部屋から、まるでネックレスの宝石と同じような青白い光が放たれているのが見えた。
「もう始めてるようですね。
それよりも早速このネックレスを調べてしまいましょう」
「は、はい分かりました!」

A子さんは携帯電話を取り出すと親戚のおじさんに電話をする。
「今から行っても大丈夫だそうです!」
「では参りましょう」

親戚のおじさんが経営している宝石店に「ネックレス」を持って行き、調べてもらうことにした。


10: 青いネックレス 8/10 2015/03/02(月) 17:29:00 ID:/sxxuDok
「おじさん、いきなりごめん。コレなんだけど……」
Kさんがネックレスをカウンターに置く。
「ほう、キレイな色だなぁ」
おじさんはルーペでまじまじと石を観察する。
「でもあんまり見ない石だなぁ。
すまんけどすぐには分からんわ。ちょっと成分分析してみよか。結果は明日になるけど……」
A子さんはKさんを振り返る。
「構いませんよ」
「おじさん、じゃあそれでお願いします!」

すると翌日の朝、おじさんからA子さんに怒鳴り口調で電話がかかってきた。
「こんな危険なものどこで手に入れたんだ!?この青白い石はウランの結晶なんだぞ!!」
「ウ、ウラン!?」
聞いたことはあるけど宝石だと思っていたA子さんにはピンと来ない。
「放射能だよ!最高に有害な!こんなもんうちにも置いとけねぇぞ!!」
「それには及びません」
激昂するおじさんの電話口の向こうから聞き慣れた声がする。
「お、アンタか!今A子に電話してたんだけどな、この石のことで!」
「はい、聞こえてましたよ。こちらはNが何を媒介にしていたか分かれば今回はそれで十分。
早速浄化しますよ」
「じょ、じょう~か~」
電話口の向こうで二人は会話を続けている。
「ふふっTもやりたがっていたようですけどね。ここに来るのが遅いのが悪い。
それにあなたにはとても幸運なことでしたよ。
Tに宝石店を破壊されなくて済んだんですから」
「お、おめー、何言って……」
「アーーーーーーーーーーーーーーメン!!!」
思わずA子さんは受話器を耳から離した。
突然の大音声に耳鳴りが止まない。
「う、うわーーーーーーーーーーーーーーーー」
おじさんの悲鳴も聞こえる!
「もしもし!もしもし!おじさんっ、大丈夫!?」
「もしもし!もしもし!」

「もしもし!もしもし!」

「もしもし!」

11: 青いネックレス 9/10 2015/03/02(月) 17:29:37 ID:/sxxuDok
何度目かの呼びかけでおじさんの返事がやっと返事をしてくれた。
「A子か……」
「おじさんっ!大丈夫?どうしたの?」
「おぉ、今な。神父の野郎が突然叫んで、青い石を手で覆ったかと思ったらな、なんか真っ白い景色に包まれちまって……。
一瞬のことだったと思うんだが、視界が戻ったらもう神父の野郎がいねぇ」
「Kさんが……」
「おおぅ!?」
「なに?今度はなに?おじさんっ!?」
「ウランが……、ウランが……石ころになっちまってる!!」

12: 青いネックレス 10/10 2015/03/02(月) 17:30:15 ID:/sxxuDok
3日後、B子さんの母親からA子さんに電話が入った。
B子さんのお母さんの、啜り泣くような、しかし気丈な声がA子さんに届く。
「B子、もう長くは持たないそうなの……。最後にA子さんとお話したいと……。
もしお時間があれば、来てあげてくれないかしら……」
「すぐ行きます!」
そういうと取るものもとりあえず、A子さんはB子さんのもとに走った。


--


キレイな青空に煙が立ち上っていくのをA子さんは見つめていた。
今、B子さんは白い煙となって天国へ向かっていく。
最後の会話はもう私が泣きじゃくっていてよく覚えていない。
だけどB子さんの穏やかな表情はよく覚えている。
ネックレスのことでB子さんに謝られたと思う。
でもそんなこと私にはもうどうでもよかった。
良くなって欲しかった。
これからも友達をしていたかった。
……。
それでも。

それでもあの人達に会えてよかった。
B子さんの言葉がふと蘇る。

「A子さんには本当に悪いことをしてしまった。
ごめんね。
だけどね、最後の最後にね。
寺生まれのTさんと神社生まれで巫女のJちゃんが私を救ってくれたの」

青い石のネックレスの呪いはもうない。
あの3人はB子さんも私も救ってくれた。

「私きっとまたこの世界に還ってくるわ。笑顔で」
B子さんと交わした本当に最後の言葉。

もう、煙も見えなくなりそうだ。
あとには雲ひとつない青空が広がっている。

寺生まれのTさん。
教会生まれのKさん。
神社生まれで巫女のJちゃん。

あの人達ってほんとに凄い。
改めて私はそう思った。


出典: 【破ァッ!!】寺生まれのTさんスレ