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1: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:19:10.30 ID:wwypvmK40.net
8月の始め
どうせ自殺するなら一番に高い建物が良いだろう。
いつもそんな事を気にしながら改札を出るとビルの屋上を眺めていた
だからその日も目的の建物までは迷わずに行けた。
俺は建物の屋上にたどり着くまでの非常階段を登る時間にこれまでの人生を振り返ってみた

3: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:20:03.43 ID:zZYQGe5m0.net
自殺したから天使にあったの間違いでは?
早く成仏してください

4: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:21:54.84 ID:wwypvmK40.net
二十歳ちょっとの俺がこれまで生きた年月で思い出すことは積み重ねた物と比べると少なかった。
一番昔の記憶から順番に辿ってみると最初に思い出したのは小学生の入学式のことだろうか
隣の席の子が緊張し過ぎたせいで病院送りになったなんてそんな事もあったなと思う。
それに最近の記憶だと昨日のサークルの飲み会の事を思い出す、さらに思い出そうとすると今でもふらつく足元
そうやって時間つぶしに昔の記憶に浸りながら非常階段を一段一段を上って行ってもなかなか屋上には着かなかった。

6: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:26:23.06 ID:wwypvmK40.net
外見だとせいぜい20階くらいのビルだったが最後、上り終えた頃には脚を攣りそうだった
そのまま立ち入り禁止の看板を乗り越えて屋上の錆付いたドアの前で手の汗を拭って屋上のドアを開けて
屋上に一歩身を乗り出すと夏の日差しが直撃して目が眩み
立ちすくむのをしばらくして再び目を開けると俺は目を疑った

7: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:29:15.14 ID:wwypvmK40.net
屋上の縁にどうやら俺と同じこと考えている先客がいた
後ろ姿から女性で年は大学生くらいの俺と同い年位か、白いワンピースを風で揺らし
その髪を麦わら帽子で強風から守っているように深くかぶっていた。
俺はそんな風に観察していると、街を見下ろす彼女の少しの横顔を見て
これから死のうとしてる人間が他人のことをそんな風に思うのもおかしな話だが「どうしてこんなに悲しそうなんだ」と思った。

9: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:32:50.14 ID:66gpjFft0.net
嫌いじゃない。続けなさい。

10: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:33:03.83 ID:wwypvmK40.net
俺は先客がいたんじゃ自殺できないなと
汗水かいて上った階段に戻ろうと踵を返してドアノブを握ろうとした時、背中越しに
「オギノさんですね?」と凛とした声が聞こえた
その声にドアノブを握ろうとした手は止まり視線ごと顔を動かすと
先ほどまで下の街を見つめていた彼女と俺は見つめ合う形になった。

11: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:35:24.66 ID:a+gvtEee0.net
同じく
続けなさい

12: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:37:08.20 ID:wwypvmK40.net
わざわざ長い階段を上って来たのに自殺を失敗に終わらせられたうえに自分の名前を見ず知らずの彼女に言われたんじゃ振り向かないわけにはいかない
俺は探るように彼女の目を見つめ続けたが彼女は耐えきれなくなったのか俺の返事を待たないで話を始めた

14: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:42:06.31 ID:wwypvmK40.net
「オギノさん、あなたを待っていました」
そう言われて俺はすかさずこう言い返した
「何で、俺の名前を知っている、それに待ってたって」
俺が知る限り彼女を見ず知らずの人だ、それなのに彼女は当然のように話を続ける
「知ってますよ、あなたが屋上に来た理由も、これまでの事も、これからの事も」
彼女に見つめられ、そんな事を言われて心を見透かされた様な気がした。
自殺するくだらない理由を知っている彼女は俺の事を嘲笑っているのか気になったくらいだ

17: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:44:41.94 ID:wwypvmK40.net
そうやって俺が考え込んでいる間にも目の前の彼女は相変わらず返事を待たずして話を続ける
「オギノさん、あなた、今のまま死んでも天国には行けないですよ。」
それを言われて俺は少しカチッと来た
赤の他人に何でそんな事を言われなきゃならないんだって、だから俺は彼女に対してこう言い返した

18: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:46:57.61 ID:wwypvmK40.net
「じゃあ、今の俺はどうしたら天国に行ける?」って
彼女はそれを何度も聞かされてあきれたような目をして俺にこう言った。

「当然のことですが天国に行くには死にそれなりの価値がないといけません」
「それがあなたには無いんですよ」

20: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:49:36.33 ID:wwypvmK40.net
「その死の価値を決めるやつは誰なんだ、やっぱり神様なのか」
「価値があるか、天国に行くのか地獄に行くのか決めるのは神様の役目ですけど、天国に導くのは天使の役目です」
天使、その言葉にひっかかる
「じゃあ、お前は自分を天使だって言うのか」

「ええ、そうです。あいにく今の私の背中には翼はありませんけど」

21: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:52:17.00 ID:wwypvmK40.net
俺は半信半疑だったが帽子の奥にある彼女の目を見て、彼女がさっき言われた事を頭の中で復唱してみる。

そんな胡散臭い話を信じたか?

22: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:54:23.89 ID:wwypvmK40.net
正直げんなりさせられた。
確かにさっきの思い出に浸るにしたって平凡な事しか思いつかなかった
それだけで今の俺には価値がないと言われて納得させられる材料には充分すぎた。
俺の死に価値は無いと彼女は言った。
何を基準にしているのか分からないが、どうやら俺の死は天国には行けない無いらしい

24: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:58:07.65 ID:wwypvmK40.net
「私は、あなたみたいに死に急ぐ人を天国に送り届けるんですよ」
「それがお前の、天使の役目なのか?」
「ええ、だから私があなたといられる一ヶ月の期間に、あなたは死に価値を持たせれば良いんですよ」
彼女は間を待たせてから付け加えるように言う

「今までの幸も悪行も全てなくした白紙の状態から」
「一ヶ月、その期間にあなたが見捨てたこの世界で自分の死に価値を持って下さい」

25: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:02:26.11 ID:wwypvmK40.net
―それで、あっけなく俺の自殺は未遂に終わった、しかし予定が一ヶ月遅くなっただけの事だ

大学から近くのアパートは俺のような大学生がたくさん住んでいる
借りているアパートの部屋でいつもの様にテレビの電源ボタンを押すと
縁もゆかりも無い県同士の夏の暑い戦いが画面に映る
どちらを応援する気はないがとりあえず負けている方を応援しておくが
点差を考えれば勝つ見込みは少ないと思われる。
俺はこの試合のような点数差を白紙にした状態からどうやって最高の終わり方に導けたものか

26: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:05:52.64 ID:wwypvmK40.net
座布団に胡坐をかくと俺に向かい合うように天使も座る
どうやらこの天使とやらはなかなか俺を死なせてくれないらしい
名前は確か
「ナツメだったか・・・?」

「はい」
返事を言いながらさっきまで深々と被っていた帽子を座布団の横に置くと
白い肌に黒く長い髪が滝のように肩から流れた
それを見て俺は素直に綺麗だと思った。

27: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:07:28.03 ID:wwypvmK40.net
「ナツメ、それでこの一ヶ月の間に俺はどうすればいいんだよ」
「どうって、別にオギノさん次第ですよ」
「人には生きる自由もあれば死ぬ自由もあるわけですからね」
「あなたが死ぬ事で私自身は困りません、ただ私はこれでも天使ですからね、人を天国へと誘うのが仕事と言いますか、使命みたいなものです」

29: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:09:56.87 ID:wwypvmK40.net
「じゃあ、何で屋上で引き止めるような事を言ったんだ?」

「あなたを知っているからです。」
「オギノさんは死ぬことも生きることにも興味を持たないで生きてきたでしょ?」
「そうやってあなたは生きてきたから、今は死の価値がプラスでもないマイナスでもない、簡単に言えば天秤のメモリが真ん中なんです」

30: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:12:42.02 ID:wwypvmK40.net
それを聞いて出会ってまだ一時間も経ってない彼女の話に、あっさり納得したな。
これまでの人生を振り返っても死に対しても生きることに対してもただそれを深く考えもしないで、時間にただ沿って生きてきた
そうやって俺は思えば思うほど彼女の言うことに興味を持ち自分に対して絶望していった

31: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:14:41.89 ID:wwypvmK40.net
「じゃあ…俺が死ぬはずだったこの一ヶ月の間に俺は生きていれば天秤の目盛はプラスに傾くのか?」
その言葉に少し困ったような顔をしてからナツメはこう言った
「まぁ、それはあなた次第ですけど」
楽観思考の俺を呆れた目で見ているナツメの視線がそのとき少し横に動いた気がした

33: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:17:35.78 ID:wwypvmK40.net
とにかく俺がこの天使のナツメと出会った事で死ぬ目的を果たすのは一ヶ月延長された
しかも、この一ヶ月をどう生きるかで死の先の未来が決まるらしい
先の見えない死を、姿が見えない神様が決めるなんて滑稽だ
それを話す彼女も、馬鹿みたいに信じる俺も同じだろう。

しみじみ感じながら体を横に倒してテレビの電源を付けっぱなしでそのまま俺は寝ていた

34: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:20:58.58 ID:wwypvmK40.net
目が覚めた時には窓の外が暗くなっていた
テレビ画面の時刻を見ると日にちをまたいでいた
上半身を起こし周りを見てみるとナツメの姿は無かった
天使ってのは半日で仕事を放棄するのかと思っていると後ろから水の弾かれる音が聞こえてきたので、風呂に入っているのかと想像を膨らまさせる
一ヶ月の間こんな風に天使と同居しなきゃいけないのかと思うところはいろいろあるが
犬や猫に比べれば生活基準は人間と同じだろうから心配事は少ないと思う
一ヵ月後に死ぬやつがそんなくだらない事を心配するのもどうだろうか

35: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:23:34.85 ID:wwypvmK40.net
一ヵ月後の未来さえ見ようとしなかった俺に価値を見出すにはどうしたら良いだろう
ナツメがさっき言っていた『生きる自由があるなら死ぬ自由もある』それを俺は寝転びながら口の中で復唱した。
死ぬ自由が今の俺にはあるんだとナツメは言った。
彼女は俺に対して死を否定しなかったんだよな。
俺は予定表見たいのを頭の中で作っていった
どうせなら自分のやりたいことをしてから死のう、それが吉と出るか凶と出るかは神様次第だが価値は上がりそうだ
頭上で流れるシャワーの水が弾く音を聞きながら考える
一ヶ月の人生を使ってどうやって価値ある死に出来るか。

36: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:27:35.09 ID:wwypvmK40.net
―次の日、朝飯を食べながら俺は早速昨日考えた一ヶ月の予定を向かいの席のナツメに伝えた
大学は夏休みなので俺は就職活動もしないで暇をもて遊ぶ時間は元よりたくさんあった
その時間を使って『価値ある死にするためには』
そのことについて俺なりに考えてみた。
自由度を高めようとすると犯罪性が増す事がわかる、天使じゃない俺でもそれはただの馬鹿だとわかる
とにかく俺は今の状況で出来る社会貢献その他をナツメに提案してみた

38: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:33:39.95 ID:wwypvmK40.net
しかしその答えは
「そんな事で価値が上がるとは思いませんね」
と、あっさりと否定された

俺は困った様にナツメに問いかける
「じゃあどうすればその価値とやらは上がるんだ」

「そうですね、一番はやっぱり、必死こいて生きようとすればいいんじゃないですかね」
ナツメはどこか他人事のように言った。
「それじゃあ、俺はいつまで経っても天国へはいけなさそうだな」
皮肉と本心の両方の意味で俺は自分に言い聞かせる

39: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:36:46.98 ID:wwypvmK40.net
それを聞いたナツメは俺の目を見据え
「死ってのは誰にでもあるから価値が付くんですよ。」
「だから単純に生きたとしてもそれなりに価値は付きます」
「あなたみたいに死を前提に生きている人には根本的に価値は付かないでしょうね」
確かに最初から期待していないものに価値をつけるほど神様も神様では無いだろう。
ナツメは続けて付け加える

40: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:39:04.03 ID:wwypvmK40.net
「生きようとすることが死につながるんですから」

俺が普通に生きて天国にいけるか色んな種類の数式に当てはめても天秤の目盛がプラスに傾くのは期待薄だろう
生きていこうとする事が天国への近道ならばこの残り一ヶ月の世界でどう生きていくかを考えるべきだ

41: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:40:14.26 ID:wwypvmK40.net
「俺なりに一生懸命生きてみるとするか」
俺がつぶやく言葉にナツメは
「私はただ天国に行って欲しいと思ってるだけですから」
と、軽く賛同された。

44: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:42:06.11 ID:wwypvmK40.net
俺はその日の内にいる物もいらない物も近くの中古屋で売りさばいた
俺のとなりにナツメが立っていたから店員に駆け落ちしてこれから身投げするんじゃないかと思われたかもしれない
まぁ、間違ってはいないかもな

そうして手元にはある程度の金と小銭になった
これで一ヶ月位なら少しは遊んだりは出来るだろう

46: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:46:11.42 ID:wwypvmK40.net
中古屋を出て家までの間に近くの大型ショッピングセンターに立ち寄って買い物袋を2袋腕から下げたまま旅行店の国内旅行の無料パンフレットを北海道から沖縄まであるだけ一枚ずつ貰い
それらを家に帰ってきてから机に大量のパンフレットを並べ表紙と中身を見比べた
雪が無いのは仕方ないだろう、ほとんどの表紙が海だ

49: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:48:58.95 ID:wwypvmK40.net
とりあえず候補を4、5個に決めた所で俺はさっきから無言で俺の行動を見つめ続けるナツメに問いかける
「お前ならどこがいい?」
自分で言っておいて、これじゃあまるでカップルか何かだと思った

50: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:51:21.44 ID:wwypvmK40.net
「本気で行く気ですか?」
「あぁ、もちろん二人分の金ならあるんだ、新婚旅行とでも思って決めてくれ」
大胆プロポーズのはずが「何ですかそれ」と、呆れた眼で言われた、しかし口は少し笑みを浮かべている気がした。

だけどこれも俺の死に場所をナツメに託したのは昨日、俺のこれからの事を知っていると言ったからだ
未来を知るナツメに頼めば少しでも価値は上がるかもしれない、単純にそう思った

51: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:53:48.19 ID:wwypvmK40.net
「そうですねぇ…」
ナツメは机の上に残った表紙の写真と行き先を見定め
「ここなんてどうでしょう」

そう言いながらナツメの細くて白い指が捉えたのは『鹿児島・種子島』
何で鹿児島、何で種子島なのかは知らないが表紙を見ると草花に綺麗な海、端に小さくロケットの写真が合成されている
中身を見てみてもロケット関連の観光をしたりと力を入れているのが分かった

53: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 19:55:36.76 ID:wwypvmK40.net
「何で種子島なんだ?」

「あなたが選べって言ったんじゃないですか」

「そうだったな、ごめんごめん」
曖昧に答えた俺だったが内心は決まっていた

「よし、じゃあ目的地は種子島にするか」

「いいんじゃないですか、種子島」
と、ナツメは自分で選んでおきながら興味無さそうに答える。

54: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:01:36.36 ID:wwypvmK40.net
それから暫く考えただがやっぱり陸から行くのが旅だろうと思う
種子島なので最終的には船で上陸だが
電車かバス、ペーパーだがレンタカーってのも手ではある
しかしどれを取るかは俺の人生経験で語るにはいささか不足していて決めかめる

脳みそを冷やそうと買ってきたレジ袋の中身からアイスを取り出しパンフレットの後ろにある小さな日本地図とにらめっこをする

55: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:04:16.64 ID:wwypvmK40.net
今に思いついた種子島旅行に価値を見出すにはどうしたら良いか
それが一番優先するべき点だろうが、そこが一番に難しく思える
この旅は単純に種子島までの道のりを遊楽すればいいのでは無い
一番に俺の死に価値を持たせる事が必要なのだ
生きる事にも死ぬことにも興味を持たない俺が天国に行けるようにするにはどうすべきか
寝転がって日本地図を見ていた俺はパンフレットを顔に載せて瞼を閉じる
暗闇の中でナツメがパンフレットのページをめくる音だけが聞こえた

56: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:07:45.31 ID:wwypvmK40.net
俺の価値を見出すことがこんなにも難しいなんて
中古屋に行ってレジのボタンを叩いて分かるわけじゃない。
目には見えない価値を算出するのは目には見えない神様だ。

おかしな話だけどこの時、俺は面白くてしょうがなかった
最高の死を迎える計画を考えるのはこんなにも楽しいのかと思った

57: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:10:11.48 ID:wwypvmK40.net
俺は瞼を開けて顔を覆い隠すパンフレットをずらしてナツメをよく見た
シャンプーの匂いがするが、俺の使っている物ではない
長くそろった黒髪、それを被せる麦藁帽子は部屋の端に追いやられている
白いワンピースは昨日と同じだがそれが一番に似合っているので咎めるつもりは無い。こうして見ると常に薄い赤色に染まっている頬、細長い眉毛、凛とした目
目鼻立ちは整っていて少なくとも大学では学校の有名人として存在できるだろうと思える

58: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:12:14.56 ID:wwypvmK40.net
「何ですか」
俺の視線に気づいたナツメがその目で少し軽蔑する
「ナツメって案外かわいいよな」
「お世辞ですか」
ナツメは軽蔑の目をしながら唇を軽く噛んだ

「お世辞じゃないさ、本心だよ」
「そうですか、ありがとうございます。」
ナツメはそれを喜びもせずに聞き流した。
そりゃあ可愛かったら可愛いって言われるだろうし、言われ慣れているのかもしれない

59: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:15:35.02 ID:wwypvmK40.net
「それで」
と、ナツメが話題を変える
「どうするんですか、その死の価値を上げる旅とやらは」
「あぁ、大体は決まった、明日にはこの家を出る」

早かれ遅かれゴールは決まっている
明日に出ようが一ヵ月後に出ようが同じだと思うならばいっそ見納めに見捨てたこの世界を見て周ろう
そんな具合に少し気取って青春を語ろうではないか

「そうですか、頑張ってください」
そう言って他人事の様に振舞うナツメを見て俺は笑った。
今日、一日俺の隣についてきたナツメが付いてこないわけが無いだろう

61: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:20:52.35 ID:wwypvmK40.net
「まぁ、俺なりに頑張るよ」
そう言うと俺は早速旅の準備に取り掛かった

衣服やら生活に必要なものは
昔、合宿や修学旅行で使ったボストンバックに必要なものだけを入れれば良かったからこれはまだ面倒ではなかった。

それよりも夏休みの間に遊ぶ約束をしていたサークル仲間に嘘をついて断るというのは骨が折れた、俺は昔から言い訳が苦手なのである

62: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:23:27.71 ID:wwypvmK40.net
友達の一人には
「何だ、彼女か」
と、言われ
「あぁ、まぁ、そんな感じだな」
と、流れのままに偽りの交際を宣言するハメになった

友達はそうかそうか、と電話越しでもわかるように俺のことを馬鹿にした
明日にもサークル間であいつが女と遊んで俺たちとの約束をばっくれたと話の肴となることだろう
その噂も一週間もすれば消え去り、一ヶ月たてば良い思い出になるんだろう

63: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:33:03.46 ID:wwypvmK40.net
この時、家族には電話はしなかった、半年以上も音沙汰なしの息子から急に連絡が来たんじゃ俺が死んでから後悔させかねない
俺は友達との電話を終えると携帯の中にあるメモ機能を開いた

64: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:34:16.26 ID:wwypvmK40.net
『遺書』
自殺するのには必須アイテムだろうと思い書き出す
しかし、何か思いを募らせることも無い事に気づいたのは上部に遺書と書いてからすぐだった
当然の事だが遺書なんて書くのは初めてだったし何から手をつけていいのか分からない。
そしてあきらめるのも早かった、どうせ一ヶ月あるんだからと手に持った携帯電話をボストンバックの中に放り投げた
ナツメはいつの間にかまた風呂に入っていた、どうやら天使は綺麗好きらしい
無計画な旅だ、野宿の可能性だって捨てきれない、そうしたら風呂には入れないだろうな
出来るだけホテルは無理でもシャワーがある漫画喫茶にでも止まろうと俺は思った。

65: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:38:52.16 ID:wwypvmK40.net
―翌日の朝早くに俺はさっそく部屋に鍵をかけて出る。部屋の中のものを考えると鍵をかける必要は無いけど、やはり最後くらいはと思って行動してしまう
玄関先を掃除していた大家に少しの間旅行に行きますからと隣のナツメの存在を気にするように言い疑心の目で「若いっていいわね」と特有の語尾で挨拶された。

「どうせこれからの事なんて決めてないんですよね?」
取りあえず俺は最寄り駅に向かってアパートの前の下り坂を下った。
完全に当てずっぽうだがこの旅に正解は無いことを考えると、これもまた正解だろうと気楽に考えていた

「そうだけど、心配しなくても一ヶ月は生きるさ」
そう言われてナツメは無言で俺の横に並んでついて来る

66: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:43:05.28 ID:wwypvmK40.net
―駅に来ると夏休みだからか家族連れが目立ちいつものように人で溢れかえっていた
やっぱり俺たちって相当変な風に思われているのかなと周りを気にすると大学の仲間がいるかもしれないと思い
この地に未練を残すまでもなくすぐに改札をくぐった

ホームでしばらく待ってやっときた電車に乗ると中は涼しかった

67: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:46:36.19 ID:wwypvmK40.net
肩からボストンバックを下ろして背もたれに背中をつけると
駅に着く前に寄ったコンビニで買った路線図を眺める

今いる駅から線路を指先でなぞってあてもないこの旅の進路を確認すると
どうやら終点まではすぐらしく、また外に出るのかと思うと嫌になった

隣で風景を見続けるナツメは髪の毛を覆い隠す様に帽子をいつものように被っている

68: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:50:55.69 ID:wwypvmK40.net
俺は終点の駅に降りると電車に詳しくないのでとにかく路線図で見た西にある駅名を見つけて
その電車へと適当に乗り込んだ
ナツメは俺についてくるだけで意見は何も言わない。
それより電車に乗ってから一言、二言しか話をしていなかった

そんなこともあり俺は
路線図の最後のページの小さな日本地図を暇つぶしがてら見つめ続けた。
こうして旅をしてみると地図で語るより日本ははるかに大きく感じる

69: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:54:51.05 ID:wwypvmK40.net
―しばらくして俺は疲れで瞼を閉じていると突然ナツメが
「オギノさん、次で一回降りませんか?」
と言った
突然のことだったので俺は車内ということも忘れて少し大きな声でナツメに聞き返した
「何で?」
次は鎌倉と頭上に流れる電子表示板を見る

「ここで降りて江ノ電に乗ったら江ノ島に着くんですよ」
そう説明するナツメは江ノ島に行きたいのだろうかと疑問が残るが
俺がこれからの行動を言うと「お好きにしてくださいと」一瞥しただけで興味を示さなかったナツメが言うんだから何かあるのかもしれない

70: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 20:59:45.61 ID:wwypvmK40.net
「まぁ、腹も減ったし降りて何か食べるか」
俺はナツメに言われた通りに鎌倉駅に降りると乗り換えるとナツメのおかげで難なく江ノ島まで行けた

「やっぱりこういう所は夜とかの方がいいのかね」
展望台の頭上に重なる夏の日差しに眩み暑さで倒れそうになる
隣に立つナツメの帽子が日傘のように顔にも影を落としている

俺たちが見つめる先には水平線が視界の端と端まで伸びていた。
このまま海の中に入れば誰だって死ねるだろう
だが水死は好ましくない、カナヅチの俺がそんな所で死のうとすれば苦しむだけだ。
水死だけじゃない、他の死に方についても俺は知っているが調べて見れば見るほど
リスク無くして自殺の仕方は無いというがわかる

71: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:00:24.76 ID:WGUiA4BJ0.net
いいね
すごく好きな雰囲気だ

72: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:02:42.00 ID:wwypvmK40.net
瞼を深く閉じて息を肺にめいいっぱいに吸い込んだ。
一回、死ぬなんてことを綺麗に忘れてナツメと普通に話す

「何で江ノ島なんて行きたいと思ったんだ?」

その問にナツメは目を伏せて言う
「思い出はお金じゃないですからね」
「こんな俺との思い出を作ってどうする気だ」
「そうですね、これから死ぬ人には関係ないかもしれないですね」
なんだそりゃ、と、俺は展望台から再び海を見た。

73: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:05:49.85 ID:wwypvmK40.net
―それから俺達はゆらゆら揺れる水平線に陽が沈むのを見続けた。
綺麗だったな、いつものビルの狭間からの夕日じゃなかったからかもな
人生の中で一番に綺麗な太陽だったかもと俺もナツメも何も言わずにただそれを見ていた。死ぬと分かっていたから余計に綺麗と感じていたのかもしれない。
今はそんなふうに何もかもが死と結びついて考えてしまう

74: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:08:14.99 ID:wwypvmK40.net
―明るいうちに俺は電車に乗りこみ駅の近くのホテルに入る
受付の目は気になったが何とか1部屋を確保した
ナツメと行動するようになって俺は周りの目を気にしなくなった。
楽観的になったとも言えるが、それとは少し違う。
周囲を見なくなったのではなく俺自身を見ないようにしたんだ
俺は昔から鏡が嫌いだった俺はなるべく鏡を見ないようにして自身の内面を見ないようにひれ伏していたんだ。
現実を受け入れたくないなんて気持ちがあった
だから今こうして現実味の欠片もない事を楽しんでいた

75: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:10:20.29 ID:wwypvmK40.net
ナツメは早速風呂に入った
その間俺はボストンバックから携帯電話を取り出す。
『遺書』と堂々と上部に書いた下に日付を書く
これじゃあまるで日記だがこれまでの思いを募らせることも出来ない俺には一ヶ月の日記をつける方がいいだろうと思った。
比喩表現をつなぎ合わせても3行に収まるほどの一日だけど、これまでの人生を語らせても同じくらいの分量になるだろうと思う

76: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:12:13.38 ID:wwypvmK40.net
俺達は夜食を食べると明日のことをナツメに話した
「明日はどこまで行こうか」
今日のことを考えるとナツメは意外と土地勘に詳しいのかも知れないと思って聞いてみたのだが
「それはオギノさん次第ですよ」
と、いつもどおりの台詞を言われるだけだった

78: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:14:55.29 ID:wwypvmK40.net
俺はまたしても路線図の後ろの小さな日本地図と睨めっこした。
大きな都市の名前しか書いていないようなもので今がどこにいるのかは大雑把にしか分からなかった
路線図にしても初めて聞くような駅名ばかりでそれほど役には立たない。
考えれば考えるほど行き先が知っている場所と限定されそうなのが嫌なので大まかに西に行くことを前提に行動することにした
金ならまだある、一ヶ月の内に種子島にたどり着ければ良いんだ
それからの事を考えなくて良いのはとても楽に感じた

79: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:17:28.10 ID:wwypvmK40.net
―次の日は朝食を食べるとすぐに出ることにした
横殴りの朝日が当たって体中から汗を出る
昨日にもまして暑さだった
俺達は近くの駅に入ると昨日考えたルートで名古屋へと向かう
適当に今いる場所から選んだんだが。
しばらくは窓から光を乱反射する海が見え
だんだんと陸地が増えると富士山が近くに見えてきた。

80: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:17:55.83 ID:wwypvmK40.net
―次の日は朝食を食べるとすぐに出ることにした
横殴りの朝日が当たって体中から汗を出る
昨日にもまして暑さだった
俺達は近くの駅に入ると昨日考えたルートで名古屋へと向かう
適当に今いる場所から選んだんだが。
しばらくは窓から光を乱反射する海が見え
だんだんと陸地が増えると富士山が近くに見えてきた。

81: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:21:26.23 ID:wwypvmK40.net
ナツメは相変わらず窓の外の風景を見続け
俺はI podで頭の中を巡る死の文字と生の文字を消すようにするのに勤しんだ。
いつ買ったのか分からない、何を目的で買ったかも覚えてない
昔に好きだった曲を聴き続ける、これからの旅を奮い立たせるようにドラムの音が鼓動のようにリズムを刻む
青春映画を見ている気分を逃がさないように音楽を聴き続けた。
窓の外を見ると夏の青空に白い絵の具をぶちまけたようなデカイ入道雲に暑さを感じ飲み込まれそうになり少し怖気づく

82: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:24:06.95 ID:wwypvmK40.net
―静岡と愛知の県境あたりで俺達はいったん電車を降りて昼食を食べる。
まだ愛知にも入っていなのに小倉トーストを看板商品とする店で俺達は昼食を食べた
店を出てしばらく歩くとベンチにへたり込み空を見上げた、さっき電車の中で見た入道雲がさっきよりも遠くに感じる。
目の前のベンチで上着を脱いで座るサラリーマンを疎み、歩きタバコする若者を睨み、子供連れの親子に微笑んだ。

83: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:28:26.84 ID:wwypvmK40.net
手に持ったラムネを一口含みまた入道雲を見ながら俺はナツメに話しかける。
「なぁ、お前はこれからのことが分かると言ったよな」
「はい」
ナツメは俺の隣に座り買ってやった冷えた麦茶を両手で握っていた

「俺はこれであってるのか」
「あってるも何も、オギノさんの人生はオギノさん次第ですからね」
「まぁ、そうなんだけどさ、こんな事で価値が上がってるのかなって」

「それは死ぬときに決まりますからね、今の私にはなんとも」
「そうかい、神様も案外分からないことだらけなんだな」
「神様と天使は違いますよ」

「へぇー」
そんな違いは正直どうでも良いと反論する気にもなれなかった

84: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:32:07.90 ID:wwypvmK40.net
こんな時間から制服を着て目の前のベンチに座る高校生は何をしているんだろう
目の前を通り過ぎながら汗を拭くサラリーマンはこれまでの人生を振り返って幸福だと言えるのか。
人々の波が駅の構内に流れていくさまを見つめる。
じっと座って何もしていないと脳内にセミが住み着いたようなそんな気さえ起こすくらい騒がしく近くから聞こえた。

85: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:50:18.65 ID:wwypvmK40.net
「そろそろ行くか」
俺たちはまた電車に乗り込んで名古屋を目指す

ーそれからしばらく車内で揺られ続ける
相変わらずナツメは外の風景ばかりを見続け
俺はI podを弄り路線図の文字を見続けた
そんなことをしていたせいか俺は乗り物酔いを起こした。

仕方なく手前の駅で降りるとそこは小さな駅で人が全くいなかった。

86: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 21:56:04.70 ID:wwypvmK40.net
「気持ち悪い」
思わず口にしてしまう、頭の中に浮かぶ風景も人も単語も全てが洗濯機に入れられたように混ざり合うような感覚に陥る

「大丈夫ですか?」
ナツメが心配そうに手に持った冷えた麦茶のペットボトルを俺の頬に当てて俺の事を見るもんだから最初俺は違う人間なんじゃないかと思った
これまでのナツメの行動から見て他人事のように形だけ心配すると思っていたんだ

87: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:04:36.05 ID:wwypvmK40.net
俺はそんなナツメに心配させまいとへりくつを言う
「未来がわかるんなら俺が乗り物に酔うこともわかったんじゃないのか」
「そこまでは対応しかねます」
天使様は達者である
さっきのナツメを返して欲しいとばかりに俺は瞼に自身の腕を置いて深く閉じた

「しばらくそっとしといてくれ」

「そうですか」

ナツメはそう言うと俺の頭上の隣の席に座って
手に持った麦茶を手の中で転がせ暇を潰していた

しょうがなく俺はポケットから白いイヤホンを巻いたI podをナツメに手渡す

88: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:06:12.43 ID:wwypvmK40.net
「暇ならそれでも聞いてろ」

素直にイヤホンを両耳に付けて音楽を聞くナツメがどの曲を選んだのかはわからないが指先が上下に少し動いているのが薄ら目の中で見えた。

89: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:09:13.89 ID:wwypvmK40.net
―「君たちどうしたんだい?」
ナツメでは無いその声に驚き瞼を明けると一人スーツ姿のおじさんが中腰で俺の顔を覗いていた。
俺はすぐにまぶたの上に乗せていた手をどかして背筋を伸ばした。

「いや、電車で酔ってしまって」
スーツ姿のおじさんは俺の顔と言葉を聞くと疑問が解決したようで
「なんだ、遠くから見ると倒れてると思ってね」
「でもその横にその子がいたからおかしいなって思ったんだ、ごめんね」
癖なのか腰が低い、ペコペコと軽く腰を折る

90: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:12:19.10 ID:wwypvmK40.net
「いえ、俺も悪いんです、大げさにベンチに寝転んだりして」

上体を起こした今でも体調は相変わらずだけど、そんな所で見ず知らずの人間に弱さを見せつける俺ではない。
「それにしても、君たち旅でもしてるのかい?」
俺が枕代わりにしていたボストンバックを見て言う

「ええ、まぁ」

「大学生だろう、若いうちに無茶するのは後々の宝になるからね」
「良いね、私も昔はよく一人で旅をしたよ」

「そうですか」と、俺は下手な作り笑いを織り交ぜ本当の目的を追求されないようにはぐらかす。

91: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:18:17.69 ID:wwypvmK40.net
しばらくこの人は自身の昔話を得意げに話していた
俺はどうしたら良いか分からず聞き手になってとにかく笑顔を作っていたが
しばらくすると話が突然途切れて何かを思い出したかように話題が俺たちの事へとなった

「そういえば君たち今日泊まるところはあるのかい?」
唐突すぎて答えるのに迷いが生じる
今出会ったばかりの人にそんな事を言われたんじゃ誰も信用しないだろう
何が目的なんだと俺は無言で見つめていると

「いやいや私も昔ね、ボストンバックを片手に旅をして散々な目に合ったんだ、旅の資金を盗まれてしまってね。」
「それで困り果てたところを一人のおじさんが家に泊まって行かないかと言ってくれたんだよ」
「その時私は神様に出会ったみたいな気分だったな」

92: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:21:46.73 ID:wwypvmK40.net
「だから、もし君たちが困ってるなら家に来るといい」
どこから疑えば良いのか、最初から最後まで疑うところしかなかった
まだ信じきれない
そんな俺を見てかおじさんが上着の内ポケットから小さい箱型のケースを取り出し名刺を俺に渡した

『アイザワ ショウジ』小さな名刺にデカデカと名前が書かれ
その横には大手製薬会社の研究部の部長と書かれていた。

「研究部の部長なんて書いてあるけど、ただのお飾りだから」
お決まりのギャグらしく笑みを浮かばせるアイザワさんに俺は苦笑いしか出来なかった

93: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:25:06.31 ID:wwypvmK40.net
どうする、金はまだ有るがここで節約して金を使わないようにするか
俺は後ろを向いてナツメに訴えかける
お前の千里眼ではここはどうすべきと言っているのか
俺の視線に気づいたナツメは俺と見つめ合う。
しかし当の本人はなにも言わない、その不自然な間を感じたのかアイザワさんは説明を付け足す

94: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:29:14.69 ID:wwypvmK40.net
「息子が独立してから家の中は退屈でね、家内も喜んでくれると思うよ」

時間が経つたび話がどんどん進んでいる気がした
こうなっては後には引けない
俺はナツメに小さく了承の意味で頷くとナツメは何かを考えるようにしながらも頷いたので俺はアイザワさんの方に向き直り

「それじゃあ、お願いしてもいいですかね?」
と、恐れ入りながら聞く
「あぁ、もちろんだよ、昔を思い出すな」
そう言ってアイザワさんが何かを思い出すように瞼を暫く閉じた。

俺はボストンバックを肩に掛け
まだよろめく足でアイザワさんに続くように改札を出る

97: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:33:49.95 ID:wwypvmK40.net
「私の家はここから歩いて10分もかからないから」
アイザワさんはそう言って前を歩く

俺は後方にいるナツメの方に向いてご機嫌を伺った
「お前は本当に良かったのか?」
天使の前に女子としてどうなのだろうかと問う
「ええ、私はオギノさんに着いていくだけですから」
結露して水滴が目立つ麦茶を持つ手の後ろに回しながらナツメは言った

「お前も大変だな」
俺はその言葉で適当にナツメを気遣いアイザワさんに遅れないように前に向き直って着いていった。

98: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:40:11.39 ID:wwypvmK40.net
それから駅から歩いて数十分ほどの道外れにポツンと明かりのついた家が2、3軒の集まっていた
その中の一軒がアイザワさんの家らしく鍵をカバンから取り出してドアを開けると
人を呼ぶ
その声に家の中からアイザワさんと同い年位の人が出てきた
「家内だ」
そう言われるとアイザワさんと同じように腰を低く折る。

「この子達困ってるみたいなんだ、泊めてやってもいいだろう?」
この家の最終決定権はアイザワさんの奥さんにあるのだろうか
少し悩む表情を出したがすぐにその表情は変わって
「そうね、困ってる時はお互い様よね」と、了承してくれた。

99: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:45:41.39 ID:wwypvmK40.net
おかげで俺たちは蒸し暑い外からエアコンのかかった部屋に入ることが出来た
案内されたのはリビングだった
それなりの広さで机の上には二人分の料理がラップで包まれていた。
「ごめんね、夕食二人分しか用意してなかったから今すぐ何か作るわね」
と、すぐに台所に隠れてしまった。

中学生の頃に修学旅行で民家に泊まることがあったがその時とおなじ感覚だ
俺は人の家に泊まることに対して未だに慣れていないんだと実感した

ナツメと目を合わせようと首を動かす

しかしナツメはこちらを見ようとしなかった。
さっきまで着いてくることに何も言わなかったけれど、心の中では不服だったのかもしれない。

100: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:49:26.00 ID:wwypvmK40.net
「まぁまぁ、そんな硬くならないで、部屋は息子のを使えば良い」

「どうもありがとうございます」
俺は抱えていた荷物をもう一回持ち運んで二階にある教えられた部屋に行き
取り敢えず部屋の隅に荷物を置いて一息ついた。
床に手を着いて膝を伸ばしてこの部屋の全体を見てみる。
実家の俺の部屋とは趣味趣向はかなり違う

勉強机の上には荷物がきちんと整理されてはいるがホコリがかかっている
本棚にある本の趣味も伝記ものが多い
他には机の横にあったCDの積み重ねを見てこの人とは趣味が合いそうだなと思えた。

101: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:56:37.40 ID:wwypvmK40.net
一段落つくと俺たちはアイザワ夫婦と夕食を食べた
手料理なんて一人暮らしをはじめてから疎遠になっていたので本心で「おいしい」と親にもしばらく言っていないのに自然と言えた。

「へぇー君たち旅をしてるんだ」
アイザワさんの奥さんが興味ありげに聞いてくる
「えぇ、大学の夏休みを利用してるんです」
「目的地はどこなんだい?」
「種子島まで陸路を使って行こうと思ってます」
「へぇー、種子島」含みを持たせてアイザワさんは言った
「それでも、恋人と旅なんて素敵ね」

その言葉に喉に通そうとした米粒がつまり近くにあった味噌汁を手に取ると無理やり胃へと押し込んだ

目の前でむせる俺に
「あれ違った?」
おかしなことでも言ったかしらと言うような顔をした

そうやって思うのはやはりこういう年代の人は昼ドラとか見ているからなのかと
偏見するのもアレだが
でもやはり冷静に考えれば疑ってもおかしくは無いんだよな。

102: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:00:52.79 ID:wwypvmK40.net
「まぁ、そんなところですかね」
俺は愛想笑いを浮かべてはぐらかす
「青春ね、若いっていいわね」
どこかで聞いたことある言葉で俺たちは交際している事になった。
友達に行った時は冗談のつもりだったのだが
むしろその方が都合が良いだろうしこれからもそうしていこうと思った

飯を食べ終わると俺たちはアイザワ夫婦より先に風呂を借り早々に出ると
ナツメが風呂を出る頃にはさっき荷物を置いた部屋に布団が並べられていた。
「私たちはもう寝るから」と、言われたので、まだ時間は浅かったけど俺達も寝ることにした。

103: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:05:29.92 ID:wwypvmK40.net
布団を深くかぶると箪笥の奥にあったのか少しかび臭いのはご愛嬌だろう。

俺は目を閉じ、これまでの事を順番に整理していった。

体は眠ろうとしているのに頭がおかしな方向に働いて
眠りたいのに眠れないズレがあって気分が悪くなって来る
こういう時に限って思い出したのが家族だった。

俺は携帯電話だけを手にして心を落ち着かせるために外に出る。

ナツメも眠れないのは一緒なのか俺に着いてきた

「なんだ、天使様ってのは人様の通話まで聞耳するのか?」

「すみません、これも天使の役目なので」
玄関から少し離れた石の上に腰を落ち着かせる、ナツメも俺の隣に腰掛けておんなじ方向を見つめる。

「別に家族とのくだらない会話だぜ?」
「くだらないなら聞いてもいいじゃないですか。」
ナツメと張り合っても勝ち目がないのはこれまでの事で分かっていたから
俺はこれ以上話を広げようとはしないですぐさま携帯の電源を付けた。

105: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:08:27.81 ID:wwypvmK40.net
携帯番号の履歴から下の方にあった親の名前を見つけ出して
着信ボタンを少し考えてから押した

コール音が1回、2回と鳴る感覚の隙間に自分の鼓動の音聞こえた。
なぜだか緊張してた、何故なのかは分からない
だけどこれが最後に家族と話すだろうからだと思った

呼び出し音が5回目なって母親は電話に出た。
俺が「もしもし」と言うと母親は初めに「こんな時間に」と前口上を付けられ怒られた
大学に入って2年近く、実家に帰っていない俺が電話をした所で何も変わらない親に少しの安心を感じる
俺が死んでも死を受け入れてくれるだろうと思った。前に進めないほど柔な両親ではない事は重々に存じている。
それは救いでもあった。

106: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:11:23.74 ID:wwypvmK40.net
俺は最後まで普通に話した
それこそ数日後に死のうとする面影みたいのは残さないように慎重にいつも通りを装って喋った。
最後に大学受験を控えている高校生の妹の心配をして携帯を耳から話す

電話を切るのを確認するとそのまま手に握り、隣にいるナツメに俺は問いかける
「俺は親不孝ものかね?」
空に見える月や星が綺麗に見えた、都会の空気とは違う何かを肺につぎ込んで大きく吐く

「どうでしょうね、人の死は誰にもあります。それを不孝か幸を決めるのは死んだ人ではありませんからね」
淡々と言い切るナツメをちらりと見ると遠くの花が枯れた向日葵を見ていた。
俺は「ふぅーん」と月を見続けた、夏の三日月だった。

107: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:14:43.61 ID:wwypvmK40.net
携帯の電源を切ろうとして画面を着け何となく履歴の一番下に到達すると指が止まり
鼓動が早まった。

「サエグサさんですね。」
言ったのはナツメだった、全てを見透かしたように俺の携帯の液晶画面を見て言う。
「その人がオギノさんの今までの中で最初で最後に恋した人ですよね」

俺はそれを言われて腹が立った、最初にナツメに出会った時のような怒りでは無く
俺の事を見透かした事にでは無い
それを俺に向かって言った事が、俺自身に嫌気がしていた

「勝手に好きになって勝手に振られただけさ」
そうやっていつもの様に自分に言い訳をして、隣にいるナツメを嫌いにならないようにする。
「それからなんですよね、オギノさんが他人に興味を持たなくなったのは」

ナツメが俺を見やる、その視線はとても冷たい

古傷を見れば新しい傷が付くだけだったのが、いつしか古傷を見ても何も思わなくなった、それが俺にとって彼女の存在が他人と同じ興味を持たない普通の人間の一員になったと気づいた時だった。

109: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:18:04.54 ID:wwypvmK40.net
だけど、もしかしたらと思ってしまう。
相手の気持ちさえ分からない今となってはそれが俺の後悔の種になっていた。

「サエグサさんを他人と見始めた事でオギノさんに取っての蜘蛛の糸が切れ、生きることも死ぬことにも興味をなくしたんですよね」
「蜘蛛の糸だと俺はもう死んでるだろ」

死のうとしてる俺にはなんの糸が必要なのか分からないが。
それからしばらくはナツメも俺も喋らないで空の月を見ていた
流れる雲が時折月を隠しながら枯れたひまわりを揺らす。

110: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:21:20.81 ID:wwypvmK40.net
しばらくの沈黙を破ったのはナツメの方だった。
「すみません、言っていいことといけないことがありましたよね」
「こんなのオギノさんからしてみれば私には何の関係も無い話でしたよね。素直に謝ります」

「いや、本当の事を言われただけだ、俺自身、本当につまらないと思ってる」

「すみません…」
もう一度ナツメは言った
俺はその場から立ち上がるとアイザワ夫婦の家に戻った

112: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:25:09.56 ID:IANEVrHN0.net
すごくいい。めっちゃ雰囲気いいよこれ。

113: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:28:24.70 ID:wwypvmK40.net
―俺が目を覚めると7時だった
ナツメは隣にはいなかったが下の階から声が聞こえてきた。

「やっと起きたのね」
「すみません」と、いつもより早く起きたのだが一番最後に起床したことを謝った。
ナツメは朝飯の支度をアイザワ夫婦と一緒にしていた
「おはようございます」
と、ナツメはいつも通りに俺に挨拶をする

俺はその時に何か泊めてくれたお礼に何か出来ることはないかと申し出た
「それじゃあ・・・」
とアイザワさんの奥さんはテレビの上にある時計の針を見つめて言う。

114: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:33:04.72 ID:wwypvmK40.net
―「はい」
扉から押されて出てきたナツメは淡い青色の浴衣をきていた。
何かできることはないか
そういうとアイザワさんはこの町周辺で行われる夏祭りの事で準備を手伝ってくれないかと言った。
俺はもちろん承諾して2時間近くアイザワさんの手伝いをした。
会場の設営の手伝いに運搬作業、バイトをするのに似ていた。
でもこれも価値を上げるためなのだと自分に言い聞かせやり遂げた

その間にナツメは浴衣のモデルとしてアイザワさんの奥さんに着せてもらったらしい

「今日のお祭りにもこれで行ってきたら」
ナツメの浴衣姿を今一度見た奥さんが言った
それを言われた当の本人は俺の方を見て決めかねるような顔をしていたので俺も言う

「いいんじゃないか、俺も夏祭りなんて久しぶりだし」

「そうですか、そう言うのなら」
そう言ってナツメが了承してくれた所で俺たちは早めに飯を食べると早速祭りの会場まで向かった。

115: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:35:56.37 ID:wwypvmK40.net
アイザワ夫婦は後から来るということで俺とナツメの二人は会場である近くの小学校まで一足早く着いた
まだ日が沈んでいないので当然の様に俺たちの他には祭りの関係者以外誰も来ていないようで
二人で学校内にあるブランコに座って夏祭りが始まるまで待つ

「ちょっと恥ずかしくないですか、私だけが浴衣って」
ナツメは自分の裾を伸ばして俺に見せる。
「良いじゃないか似合ってるんだから」
俺たちがそうやって暫くブランコで暇を潰していると校庭の中心のやぐらに伸びる提灯の明かりがつき始め家族連れが増え始める

116: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:38:21.52 ID:wwypvmK40.net
視界に広がる夏の光景に懐かしさを覚える。最後に夏祭りに来たのはいつ以来か正確には覚えていないけど中学生くらいだと思う
あの時の俺にはこの光景がどう見えていたのか
それすら覚えてはいないけど俺はこの懐かしい空間に酔っていたのか上機嫌だった。

「なぁ、ナツメなんか食べたいものあるか」
「なんですか急に」
「おごってやるから好きなもの言ってみろ」

「それじゃあ、わたあめとか」

117: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:46:49.40 ID:wwypvmK40.net
俺はナツメも引き連れてわたあめ屋へ行き2つ買ってまた二人でブランコに座って食べる

「楽しいもんだな、こうしていると」

「そうですね」
俺たちはブランコに跨り暫く夏祭りを見ていた
スピーカーから流れる音楽と太鼓の音に合わせて踊る人々

そんな光景に俺は思い出したように
「そういえば、もし俺が一ヶ月後に約束を破って死ななかったら俺はどうなるんだ」
その疑問は一番最初に聞いてもいいのにどうしてこの時までそのことを忘れていたのか
多分、俺は最初から死なないなんて考えてなかったんだ
だから今のこの雰囲気に酔うまで気付かなかった

118: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:49:26.58 ID:wwypvmK40.net
ナツメはその答えを簡単に言った

「その時はあなたは私との記憶を消され元通りの人生になりますね」
意外だった、もしかすると神様に酷い殺され方でもされるんじゃないかと思っていた。

ひと安心してわたあめにまた齧り付いていると遠くで手を振っている人影があった
まだ、薄ら影の中だったのでアイザワ夫婦だという事はすぐに分かり、合流すると一緒に祭り会場を巡った。

119: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:52:59.47 ID:wwypvmK40.net
いい思い出作りになった、久しぶりの夏祭りにすっかり時間を忘れていた
「こんなに楽しかったのも久しぶりかも知れない」
電灯が夜道を照らす中、ナツメに俺は話しかけた

「よかったですね」
ナツメはそんなに楽しめなかったのか無関心だった

そんなこんなでアイザワ夫婦の家に帰った時には疲れ果てすぐに布団に潜りこんで寝た。

120: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:56:22.86 ID:wwypvmK40.net
―彼は今日、子供のようにはしゃいでいた
それが私にはとてもおかしく見えた。傍から見れば今にでも死のうと思っている人間には見えないだろう。しかし彼は死ぬだろう
この表現は今までの経験則的なもので自分の悲観的な部分も含まれている
私は彼の行動を私は止めることはできない
天使である私には人一人の感情に入れ込んだりしてはいけない
それは今おける状況で一番の選択しであると思うから

121: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:58:35.01 ID:2e14YcevO.net
おいおいwww
何時間貼り付けてんの?ww
5時間だぞ?ww
正気かよ

124: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:07:07.39 ID:NIurWt9H0.net
>>121
いいえ狂気です。死のことばかり考え、死に場所を探す旅へ向かい、いないはずの天使と旅立ち
「あなたの人生を最後まで導きます」と言われて天使と結婚しちゃう奴だ。狂気しかない。

122: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:02:03.31 ID:lq98gF540.net
―次の朝、俺たちは朝飯を食べるとすぐにも出かける準備をした
「駅まではクルマで送ってあげるよ」
アイザワさんが俺の荷物を片手に持って言った

断る理由も見つからないので俺とナツメはアイザワさんの軽トラの荷台に乗せてもらう
座り心地は悪いがこの感じは好きだった

駅までの田んぼと畑の道を走り、舗装された道を少し出ると

「大通りに出るとまずいからここまででいいかな?」
と、言ったので俺たちは荷台から降りる
「ありがとうございました」
と頭を下げる
アイザワさんが来た道を帰っていくのを俺たちはしばらく見つめて動かなかった。

「いい人だったな」
もう姿が見えない車に残された土の道と田んぼを眺めて俺は言う。
「そうですね」
ナツメも俺と同じように見ていた
片手に背負ったボストンバックを抱えて教えられた道を歩いて駅へと向かった

123: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:06:12.61 ID:v3vZhybk0.net
こういう雰囲気、本当に好きだわ。
頑張れ!

125: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:08:14.43 ID:lq98gF540.net
―そのまま順調に名古屋に着いて電車から降りると俺たちはせっかくだからと観光した。
残り期間は有り余っているその時間をどう過ごすか悩んだ。
時間を有効に過ごすというのは簡単に見えて意外に難しい
さらに言えば生きるはずじゃなかった人間には生きている感覚を掴むのが難しい話なんだ
どうしても考えが自由な方向へと行ってしまう

126: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:11:04.51 ID:lq98gF540.net
だからその夜、俺は漫画喫茶にあるパソコンを使ってこれまでパンフレットに頼ってきた観光情報をより深く知るために情報を頭の中に詰め込んだ。
大学の勉強はいくらしても単位が取れるか取れなかったのにこういうのはすぐ頭に入ってくる。
もしかするとこういうのを死に物狂いというのだろうか

127: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:14:58.57 ID:lq98gF540.net
これは余談だがナツメは俺より早く起きているのが常だと知ったのはこの旅を初めてすぐだった。
「早起きなんだな」
俺はナツメにそう言うと
「あなたが遅いんですよ」
と、言われた。大学生なんてそんなもんだろうと思う。
だから旅に出てからもう数日が経ったのにナツメが寝ている姿を見たことがなかった
そのせいなのか日中のナツメは欠伸ばかりしているのがよく目撃できた

128: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:17:51.15 ID:lq98gF540.net
―近畿の方まで来ると観光名所が連なった、奈良に大阪に京都、高校の修学旅行で行ったつい最近の記憶を呼び起こしそれぞれ観光名所に行った。
夏休みだからか家族ずれが溢れかえるなかいち早く俺は神社で物言わぬ神様に手を合わせた。
願いがない俺は何を願うものか、取り敢えず世界の平和でも願った

129: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:19:59.56 ID:lq98gF540.net
俺はこの時、旅行の準備時にバックの中に放り込んだデジタルカメラを思い出し観光地を背景にナツメを立たせ写真を撮った。
高校生の時に夏休みの短期バイトで買ったカメラだ。
カメラが欲しいが為に働いたわけじゃないからこれまでの成果は少ないけど
今こうして天使である女の子を被写体にこのカメラを使うときが来たんだ。人生何が起こるか分からない。
最初は恥ずかしがって下とか変な方向に目線を逸らしていたナツメも俺がしつこく言ったおかげで自然にカメラを見るようになっていた。

130: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:24:56.09 ID:lq98gF540.net
―そうやって俺たちは気楽に過ごしたおかげで気づけば俺があの屋上でナツメに出会ってから二週間近くが経っていた。
猶予は残り16日、もう一ヶ月である期限の折り返し地点に立っていた俺はレジ袋を抱え
日陰のベンチでナツメと一緒にアイスを食べながらカメラの画面を覗きこれまでの事を振り返りながらナツメに問いかけた

131: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:27:25.71 ID:lq98gF540.net
「俺の価値はこの二週間近くでどのくらい上がったんだ?」
目の前の噴水から溢れ出る水の一ヶ月の水道代を考える。
つい俺の価値よりも上なんだろうなと思ってしまう。

「どうでしょう、オギノさんの死の価値は上がったとも下がったとも思いませんね、個人的には」
「そうかい」
期待をしていなかったのだから期待を裏切ることすら無い。

そんなふうに思う人は、すごい残念な人ですねと他人事めいて俺は思う。
これまで起きたことはもしかしたら全て夢だったんだと言われた方が現実味を持てた

132: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:29:51.70 ID:lq98gF540.net
食べ終えたあたり付きアイスの棒を見る
何も書いていない棒をすぐにゴミ箱へと投げ入れると俺はまたナツメに話を振る

「昔からなんだけど、どんなに悪いことをした人も、どんなに良い行いをした人も、どんな奴にも朝はやってくるとか、何か飯を食べないと生きていけないとか」
「それをしないと生きていけないって事がすごく嫌いなんだよ」
「死ぬために生きなきゃいけないし、生きるってことは最後は死ぬことだし」
「どうも俺は生まれてから生きていると感じた事が一度もないんだ」

133: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:32:26.38 ID:lq98gF540.net
「とても生きづらい世界ですね。この世界はオギノさんに取って」
そう言いながらナツメがアイスの棒を見た

「でも、まぁ、残り二週間ちょっとで死ねるじゃないですか」

「今のままだと天国に行けそうも無いけどな」
自分で言うと虚しさが全体に冷水を浴びせられるように虚しくなる。
しかしそれも夏の暑さがすぐに昇華させてしまう様に感じた。

134: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:34:22.17 ID:lq98gF540.net
「でも、それでもいいほうですよ、オギノさんは」

そう言うのは俺を慰めようとしているのかと思っていたがナツメはこう続けて話し始めた

「死ねるだけまだマシですよ」
「それはどういう意味だ?」
「天使は死ぬことを許されないんです。」

ナツメは手元を見ながら最初に会った時のような顔をして俺に話を続ける

「生きることができないのと死ねないことはどちらのほうが不幸なのでしょうかね」
ナツメはそれ以上語ろうとしないで手元のアイスの棒を見続けていた。

135: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:38:52.55 ID:lq98gF540.net
俺はレジ袋から野菜ジュースを取り出してストローから吸い上げて飲みながらその答えを考える

「でも、まぁ、死ぬことが幸せとは限らないんじゃないか、みんな死ぬのが怖いから生きているんだろうから」
俺が言えたことではないのは重々承知しているけど

「それあなたが言えたことですか」
そう言ってナツメが少し笑ってくれたので良しとしよう
野菜ジュースの紙パックを握り潰して最後の一滴を飲み干すとゴミ箱に向かって投げる

「そろそろ今日泊まるところでも探すか」
隣のナツメを見るとアイスの当たり棒を持って興味なさそうにゴミ箱に捨てた。

136: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:40:26.78 ID:lq98gF540.net
―この話の終わりはいつでも彼の終わりの話で幕を閉じる
いつだってそうだったから、私は確信を持って言える。
自分は棚に上げ、それこそ見ているだけなのだ。
それでは私の話はいつ終わるのか。
そんなことを最近になって考えてしまう。
そんな私はおかしいのかも知れない

137: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:42:38.75 ID:lq98gF540.net
―四国への上陸は船に乗って行く事にした。
俺はまた酔うんじゃないかと船内で籠もってテレビをうつろ目で見ていると
「せっかくだから外に出ませんか?」
とナツメが誘ってきた
俺はナツメに言われた通りに外へと出て夕日が沈む水平線を見る

この旅に出てすぐに江ノ島で見た夕日とは違って思えた。
死期が迫って来ると物の見方や考え方は変わってくるのかも知れない

138: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:45:00.17 ID:lq98gF540.net
ナツメの髪が船の流れに沿ってできる風によって泳ぐ姿を見てそれまでとは違うナツメが見れた気がした
ただ夕日を見ているだけのナツメの姿に感情が芽生えた。
今まで一緒にいて、ナツメのことを見て可愛そうだとか悲しい奴だとは思わない
そんなことを思える奴は相当に自分が幸せなんだと思ってる奴なんだと思う。

ただ天国へさえ行ける見込みがない俺が言えるのはこうして一緒に夕日を見つめるナツメが最近まで知らなかったとは思えないほど知れた気がした。
何故だかそう思えた
そんな事を考えるのは多分、感傷的になっているんだろう。

139: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 00:47:12.72 ID:lq98gF540.net
だから俺はナツメにこう尋ねた

「俺の話をしても良いか?」

「ええ、どうぞお好きなだけ」

「ありがとう」
そう言うと俺は長いため息をついてから話始める。

「サエグサの事だ、それこそ自分でも気づかない内に好きになっていた」

「あっちはどう思っていたかは今では知る由もないけど」
「高校生の俺は気づいた時には彼女の事を見て、勝手に片思いしてんだ」

140: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:01:36.75 ID:lq98gF540.net
「それで話は俺とサエグサが高校3年になったばかりの時だ」

「俺はある事件を起こした、俺とサエグサが共通して仲が良かった奴が自殺未遂を起こしたんだ」
「俺はそいつが自殺することを知っていたんだ、なのに俺はそれを止めようとは思わなかった。」
「色んな人が俺に批難したよ、どうして知ってて止めなかったんだって」

「俺はその時になって気づかされたんだ、多くの大多数の人ってのは生きているから死ぬんだと思っているんだなって」

「俺は昔から死があるから生きているんだと思っていたんだ」
「だから友達が死のうとしているのに止めなかったのはそれが人間的でとても自然の出来事だと思ったんだ」

「俺は弁解した、とにかく何かを言われる度に頭を下げた」
「でもそんなのは問題じゃなかった、そんな事で誰も許そうとはしてくれなかった」

142: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:06:07.63 ID:lq98gF540.net
「どうだ、お前には分かるか、一回でも世間から外された人間の気持ちが分かるか」
「いや、分かったほうが悪いのか」

俺はその時の事を思い出す。
友達の家族は俺を責めた、今思えば当然の事だと思う。

「そんな時にでもサエグサは俺に構ってくれたんだ」
「俺はそれが救いだった」

「でも俺はその時、ある話を聞いたんだ」
「自殺未遂をした友達のことをサエグサは好きなんだって」

「もちろん噂だから真意は分からない」
「だけどもし、そうだとしたら俺にかまってくれていた時にどんな気持ちってのはなんだったんだろうって思ったよ」


「俺は彼女の真意を知るのが怖かった」

「だから彼女の前から逃げたんだ」

143: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:07:50.18 ID:lq98gF540.net
「そんなことがあってから、俺には生きることも死ぬこともどっちも興味をなくしてしまったんだ」

「いやそれよりも、もっとずっと前からそんなものは無くしていたのかもしれないけど」

「サエグサは多分普通に暮らしているんと思う、俺のことなんかもうとっくに忘れているだろうよ」
「それでいいんだ、忘れてしまった方が俺にとってもサエグサにとっても」

「これまでの出来事の全てに何かしらの意味があったとしたら」
「今の俺はこんなにも後悔せずにいたのかもしれない」

144: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:10:44.73 ID:lq98gF540.net
「これで終わりだ、俺のことを全部知ってると言ったお前にはつまらなかったかな」

「いえ、そんなことはないですよ。」
「オギノさんが生きたそのようなことだって私には全てが興味深く思えます」
ナツメは俺を見た

「こんな俺に興味を持つなんて俺と似てるのかもな」

「そんなことありますかね」
ナツメは冗談混じりにそう言った。

145: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:12:51.54 ID:lq98gF540.net
―ナツメのことを話せばそれは短くもなるし長くもなるだろう
俺は今この天使と二人して船の上で揺られている
これまで事を話した
あれからずっとこうして携帯電話の中で誰が見せることなく一人書いていた自分自身の話を
この携帯には日記代わりに使っていたから色々な事が詰まっている。
いつか誰かに言えればいいと思っていたが、最初の人間がナツメで良かったと思っている。

146: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:16:12.70 ID:lq98gF540.net
―次の日になり、四国に乗り込んでからはとりあえず俺はナツメと向かい合ってうどんを食っていた。
理由は簡単でナツメがこの前聞いていた曲で思い出したのだった。
簡易的な木の机で残りの金を財布を覗いて数えてみるとそれは目に見えてなくなっていた

店の上の方にに台座をつけてその上にある薄型のテレビを見るとちょうど天気予報をしていた
旅を始めてからやたらと天気予報を気にし始めた気がする。
天気予報士が一週間の予報を画面越しに言う。
ここまで雨は一、二回しか降っていなかったのに来週にはこれまでの集大成なのか強い台風がたくさん来るようだった。

147: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:20:13.52 ID:lq98gF540.net
「来週までには種子島にいないとな」
俺は最終日の前日には種子島にたどり着きたいと思っていた
理由は観光パンフレットに書いてあったロケットの発射だ
発射の日にちがちょうど最後の日だったのだ
ナツメがどうして種子島を選んだのか考えてもこれぐらいしか思い浮かばなかったっていうのもあるが俺もテレビでしか見たことがない光景に興味を持っていた。

「うまい店はこういうところなんだよ」
そう言ってうどんを啜るボロい店の方が飯は美味いんだよと
ナツメに言い聞かせてこの店に入ったが正解だったのかナツメも終始無言で食べていた

148: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:22:51.22 ID:lq98gF540.net
―それからすぐに店を出ると店員に教えてもらった方向に歩き始める
炎天下の中を切り裂くように歩き続けても、同じような光景が永遠と続く
林にあぜ道に田んぼと何一つ変わらない中を俺は汗をかいた

しばらく歩くと誰も訪れるものはいないだろうボロの神社の境内に入り本殿までの石段に出来た高い木の木陰で休むことにした。

「俺、こういうのに昔から憧れてたんだよ」
ナツメを見ていると頭上から直射に当たる陽に隣を歩くナツメは汗をかいていないのを見て被っている麦わら帽子が少し羨ましくなる

「何がですか?」
「夏の暑い日に、こうして田んぼ道を歩くの」
「生まれも育ちも割と都会だからさ、こういう風にただひたすらに田んぼ道を歩くだけっていうのが」

「そんなに汗かきたい人には思いませんけど」
ナツメは手をうちわの代わりに顔の目の前で上下左右に揺らして暑さを俺に訴えかける。

149: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:24:53.58 ID:lq98gF540.net
それからまたどのくらい歩いたか分からないが
ペットボトルに入っていた麦茶の底が見えるまでに枯渇した時に木製の屋根付きバス停にたどり着いた。
時刻表をみるとその前にバスは発車していて、次のバスまで1時間半あることを知った俺はベンチにそのまま寝転がった。

「セミって七日しか生きられないって言うけど実際は何年も土に潜ってるから七日じゃないんだよな」

「なんですか急に」

「暇つぶしだよ、暇だろお前も俺と同じで」

「そうですけど」

「なんだかんだで、俺の死の価値を上げる旅なのにいつの間にか普通の旅行みたいになってるよな」
修学旅行のような高揚感に似たこの旅は意識をしていないとすぐにでも目的を見失ってしまいそうになる。

150: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:26:30.21 ID:lq98gF540.net
「こんなんじゃ天国へいけそうにもないな」

「そう思うなら、もうちょっと努力してくださいよ」

「誰かが何も教えてくれ無いからだろ」

「すいません…」

ナツメがこうして謝るのは俺と会ってから何回目だろうか。今度から数えてみよう

「悪かったよ、俺だって悪いんだ、自分のせいなのに皮肉を言って」

俺はいつしかこの旅で気づいたんだ、最初にも言ったがナツメは結構可愛いんだよな
ナツメの謝る姿を見たときに何かを言ってやるとナツメは笑うんだ
それを見ていく内に俺はナツメを笑わそうといつのまにか必死に考えていた

151: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:29:16.31 ID:lq98gF540.net
「お前笑ってた方が絶対可愛いぞ」

「なんでそんなことオギノさんが言うんですか」

「全然表情変わらないから笑った時が印象的なのかも」

「なんですか、私の表情に文句をつけるんですか」

「だから怒らないで笑えよ、可愛いんだから」

「こうですか」
ナツメは指でエクボを上げる。
いつも表情筋も動かしていないのか自然の笑い方では無いのが面白かった

「可愛いですか?」

「可愛いってより面白いな」

「酷いですね」
そういうナツメは怒りながらも笑いを堪えてるように見えた
そんなナツメを見て俺は満足する。

152: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:32:27.77 ID:lq98gF540.net
―バスが来たのは時刻ぴったしだった
暑さから解放されて、しばらくバスに乗って周りの風景にうつつを抜かしていると天気は変わり突然雨が降り出した。
俺たちは傘を持っていなかったので終点のバス停に雨宿りすることになった。
近くには乗ってきたバス停同様に木製の屋根付きベンチ付き建物があって田んぼもあってさっきと移動したのか分からないほどまわりの風景は変わっていなかった

「今日はもう遅いしバスも来ないみたいだしここで泊まりかもな」

「そうですか」
ナツメは抵抗することなく言った
夜になっても雨は小降りになって降り続いた

俺たちはバス停のベンチで二人して座って雨が止むのを待った。
俺は暇つぶしに携帯の画面を指でなぞる
ナツメはずっと雨雲を眺めていた。

153: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:37:07.42 ID:lq98gF540.net
それをたまに画面からチラチラと見て最初にこの旅を始める時に思っていたことを俺は思い出して申し訳なくなった。

「悪いな、野宿なんてさせて」

「お人好しですね、ホント」
俺はてっきりナツメは不服そうにため息でも付くのかと思っていたが、ナツメの顔に不満の色は無かった。
むしろ喜んでいたような気さえした、雨の中バス停で野宿するのに喜ぶはずもないか。

154: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:40:43.40 ID:lq98gF540.net
俺はしばらくベンチによたれ掛かりウトウトしていた
雨が木製のバス停の壁を叩き耳から消えない
神経を寝ることに集中すればする程底なし沼のように寝られなくなる
俺がそうして目を閉じて仮眠をしていると、いきなり横のナツメの声がしたもんだから俺は目を覚めた。

「オギノさん、起きてください」

「なんだ」

俺は最初バスが来たとナツメが寝ぼけて俺を起こしたんだと思ったんだが
俺が目を覚まして目の前を見ると傘を差し雨合羽を着た女の子がいた。
雨がさっきより弱まったとはいえこんな時間に子供が一人で出歩くなんておかしいだろ。そう思ってる間にもその少女は俺たちを見ていたんだ、それに手には大人用の傘を手にしていた。

155: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:43:51.13 ID:lq98gF540.net
俺は意を決して少女に話しかけた
「こんな時間にどうしたの?」
子供に話かけるのは慣れていないので怪しまれたかもしれないが、それよりも今は明らかに少女の方が怪しく思える。

しかしその問い掛けに少女は無言で右手に持っていた大人用の傘を持ちにくそうにして俺たちの方に差し出す

俺とナツメは二人してその行動に困惑気味で固まっていると少女はやっと口を開いた

「こんなところにいたら風邪引くから、私の家に案内してあげる」

その声は雨の音にかき消されそうな程小さな声だったけど、よく通る声だった。
俺は最初神隠しにでも会ったのかと思った。
だけど神隠しにしてもここよりかはいい宿を提供してくれえるだろうと思った。
俺は少女が差し出した傘を受け取ると問いかけた

156: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:46:16.65 ID:lq98gF540.net
「泊めてくれるのか?」
少女の口から出る言葉の正確性に俺はつい相手の年齢を気にしないで喋っていた

「おばさんがなんて言うか分からないけど」

冷静に言うその口調に俺は少し緊張しながらも荷物を持ち上げ立ち上がった
少女は俺が立ち上がるのを見て踵を返し、雨で泥濘んだ田んぼ道を歩き出した。

さっき言ったおばさんの物なのだろうか、灰色がかりサビがある傘を開き少女に着いていく

傘は一つしかないので必然的にナツメと一緒に入ることになった
俺は傘をさして肩を寄せあうようにしてナツメに聞いてみる

157: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:49:35.62 ID:lq98gF540.net
「なぁ、どう思う?」

「何がですか?」
こんな時にも他人事のように冷静にそう言うナツメに少し怒りながら俺は言う

「神隠しか何かだと思わないか?」

「オギノさんって意外とそういうの信じるんですね」

「信じるとかじゃなくて、こんな時間に出歩く子供を信用していいと思うか?」

「こんな雨にバス停で野宿している人のほうが断然怪しいと思いますけど」
「それに、そんな人達に声をかけて泊めてくれるって言うんですからついて行っても良いんじゃないですか」

「どうなっても知らないぞ」

少女は一定間隔の時間で後ろに振り向き俺たちとの距離を見て歩き続ける
暫くすると田んぼ道を抜け山道に入ると整備された細い道を上ると遠くに明かりが見え始めた。

158: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:54:48.14 ID:lq98gF540.net
外見は昔の木造家屋と言った感じで相当広い
その建物へと少女に連れられて近づいていくと玄関の明かりが弱く光っていて一層に不気味さがあった
少女は玄関の引き戸の玄関に近づくとドアを叩いた。
俺たちは少し離れたところでそれを見る。

少女がしばらく叩いていると内側から女の人が出てきて少女を見やると中腰になり、少女と同じ目線になると何かを話しかける
雨音で聞こえなかったが見た感じどうやら心配しているようだった
少女は話を途中で遮ると俺たちの方を振り返り見る
それにつられて女性も顔を上げて見てきたので俺は一礼した。
女性はそれを見ると会釈する、少女は振り向き直ると女性になにか話しかけていた。

俺はその光景を傘からはみ出した肩が雨に当たり服に染みるのを気にしながら見ていたが暫くすると少女がまたこちらを見たので俺たちは少女たちに近づいた

159: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 01:58:15.72 ID:lq98gF540.net
「どうやらナナミの事を心配してくださったみたいで」

背筋を伸ばした女性は言った
ナナミというのは少女のことだろう
しかし心配してというのはおかしい、さっき出会ったばっかりで俺たちは少女のことについては何も知らない。

ナナミが俺の顔を見る、察するに俺たちが泊めさせてくれるように俺たちの事を過剰評価したのだろうと思う。

「寒いですから中に入ってください」

女性が先に入りナナミが入り俺たちは傘を畳んで家の中へと入った
中も外見と同じように年季があった
ナナミはそそくさと廊下を走り奥に消えていき二つのバスタオルを持ってきて俺達に差し出した

「ありがとう」
俺がそう言うとナナミは軽く会釈し玄関の近くのドアに消えて行く。
着替えを用意したのでどうぞ着替えてくださいと言われ女性に着いて行き洗面所で着替える

二人とも着替え終わると先ほどナナミが入っていった部屋に行った

161: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:01:24.27 ID:lq98gF540.net
そこは広い居間で長い机に椅子が三つあった
俺はその一つに座るとナナミが奥の部屋からお茶を二つ盆の上に乗せて俺たちに差し出した。

「ナナミ、ありがとう」

さっきの女性が奥の部屋からそう言って出て来る

「先程はナナミが大変お世話になったそうで」
女性はそう言い会釈した

「いえ」
お茶を両手で包みこんで暖を取る、手が冷たいからかじんわりと痺れた

「ナナミはもう寝なさい」

壁に置かれた時計を見るともう日付が変わろうとしていた
ナナミは俺たちに軽く会釈すると部屋を出て行った

「今日はもう遅いですし、雨も止みそうもないので空き部屋を使ってください」

俺たちは女性に案内されて二階の部屋を案内され納戸から布団二枚取り出すと

「では、狭い部屋ですが」
と、言って部屋を出て行った、どうにも対応が旅館みたいだと思った

俺は疲れが溜まっていたせいかその日はすぐに寝れた

162: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:04:04.97 ID:lq98gF540.net
―次の日、朝になってまず異変に気づいた、いつもは、俺より早く起きているナツメがまだ寝ていたのだ。

昨日、雨に打たれてたせいだろう、咳は出てないが熱があったので女性にお願いしてもらいしばらくこの家で看病することになった

「すみません、オギノさん」

ウトウトしながら答えるナツメ
そんなこと言われると罪悪感が襲ってくる

「俺だって悪いんだよ、あんなところで野宿しようとしたから」
「しばらく動けないだろうし、しばらくこの家に泊めてくれることになったから、心配するな」

「すみません」

ナツメは目を閉じて眠そうにしていた
いつもの寝不足の解消になることだろうと考え俺は水に浸したタオルをおでこにかけてやると部屋に一人にさせた。

163: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:06:58.60 ID:lq98gF540.net
俺が下の階に降りるとナナミが玄関で靴を履いていた途中だった

「どこ行くんだ?」
俺は完全に相手が子供だと気遣い無く話しかけていた

「散歩」
ナナミは俺を見ないで足元の靴ひもを結びながら言った


「ナナミ」

俺がその声に後ろへと振り向くと女性がナナミの後を追いかけて来たのか小さなバックを持って来た。
俺が近くにいるのを見ると少し動揺していたがナナミを見て

「これ、忘れ物よ」

手に持っていたバックをナナミに渡した

「気をつけて」
軽く手を降る仕草をして引き戸を開けるナナミを女性は見送った。
俺はあんな小さな子を一人でどこかに行かせて良いものかと感じていたが人様の家の教育方針にまで口は出せない
それにこちらは泊めさせられている身だ

164: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:10:36.44 ID:lq98gF540.net
―俺は居間で女性とこれまでの旅の事を話したり
これからの予定を話して時間を潰し、たまに二階に上がってナツメの容態を見たりした

ナナミは夕方に帰ってきて、それから夕食の手伝いをしていた。


ナツメは風呂が入れないので俺が頼んで女性がタオルを濡らして体を拭いてくれたそうだ。
寝るときに部屋を訪れた時にはナツメの風邪も朝に比べるとだいぶ良くなっていたのですぐに治るだろうと思った。

165: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:16:40.76 ID:lq98gF540.net
―次の日、起きると昨日と同じようにナツメの容態を見て
玄関で靴を履くのに躓くナナミを見つけたので俺は話しかけた

「今日も散歩か?」

「そうだけど」

「俺もついて行って良いか?」

ナナミは意外そうに俺の方を見た。このままだと断られると思い言葉を付け足す

「朝の散歩だよ、それに小学生の夏休みの宿題くらいならわかるぜ?」
朝の散歩をするという趣味はないがナナミにもこの家に泊めさせてくれた礼を言いたかった。
ナナミは少しの間考えて

「その格好で行くの?」
と、俺の寝巻き姿を見た

「少し待っててくれ、着替えてくるから」
俺は二階に駆け上がりバックから外着を取り出して着替え、下に降りた時には靴も履き終わって突っ立ていた

「お兄ちゃん、着替えるの早いね」

「特技の一つだからな」

166: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:19:06.10 ID:lq98gF540.net
そう言っていると後ろから女性が廊下を歩いて来て俺の姿に驚くと同時に尋ねて来た

「ナナミと一緒に行くんですか?」

「ええ、一緒に朝の散歩でも行こうかと思って」

「そうですか」
と、女性は少し不安げだった気がする。

出て行く時に女性がナナミに小さく手を振っていた
俺たちは家を出ると仲良く並んで坂道を下り、小さな用水路が流れえる田んぼ道をブラブラとあてもなく歩いた

167: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:23:43.58 ID:lq98gF540.net
「お兄ちゃんはどこから来たの?」
セミの鳴き声のなか隣で俺と同じように道を歩くナナミが聞いてきた

「東京だよ、東京の東の方」

俺はこんな田舎で子供に都会自慢でもすれば面白がるかと思っていたんだがナナミは興味がなさそうに
「そうなんだ」

それだけ言うとそれはその話を広げようとしなかった。

期待されていた話題は盛り上がらなかったので、俺はわざわざこんな朝に着いてきた理由を早々にナナミに話し始めた

168: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:27:05.54 ID:lq98gF540.net
「お前にも礼を言いたかったんだよ」

「なんの?」

「見ず知らずの俺たちを泊めてくれてありがとうな」

「別にいいよ、私は、それにお姉ちゃんは風邪引いてるんだからしょうがないよ」

泥が着いたら目立ちそうな真っ白な服を着て口が達者なナナミをみるとナツメを思い出す、
しかし身長が足りない、それに言葉をところどころ切るのはまだ子供が見え隠れしていた。

「それにあそこは私の家じゃないし、あの人たちは私の言ったことはなんでもしてれるもん」
俺はそれに聞き返して良いものか慎重にナナミに聞く
「それはどういうことだ?」

「あの人たちは私のお母さんの妹、つまり私にとって叔母さんになるの」

なるほど、頷けるものがあった、あの妙な間というか噛み合わない所を感じていたけど
つまりそういう事だったのか

169: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:29:13.71 ID:lq98gF540.net
ナナミは話を続ける
「私の両親は私が3歳の時に交通事故で死んでしまって、それで私は叔母さんに引き取られたの」
それを幾度となく言っているのか飽きたようにこれまでの経緯を冷めて話すナナミは話の最後にこう呟いた

「私は早く大人になりたいの」

「なんで大人になんかになりたいんだ?」
俺が返した質問にナナミは呆れたのかもしれない、淡々としてこう言った

「この町を出て旅をしたいの、子供だと大人にとやかく言われるでしょう」

「旅って一体どこに?」

「お母さんとお父さんを探す旅」

ナナミは口をごもらせることなく俺のことは見ないで遠くの入道雲を見ながら言った。
相変わらずその透き通る声が周りから聞こえるセミの鳴き声の中でもよく聞こえた。

171: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:31:36.47 ID:lq98gF540.net
ナナミは両親が死んだことを認めているのにそれでも両親を探す旅に出ると言った
それは死を探す旅ということなのか
そうだとしたらナナミの言う死を探す旅というは俺と同じなのかもしれないと思った。

「俺は大人も子供の延長見たいなものだと思うけどな」
「大人だって悪いことをするし、怒られる。それにみんな結局は子供だったんだから」
「そう思うと大差がないように思うけどな」

「そうかもしれないけど、今の私は子供だから」
ナナミはそれ以上その話について語ろうとしなかった

172: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:34:10.06 ID:lq98gF540.net
多分、俺と一緒で生きることよりも死ぬ事のことを考えているんだろう。

それからもブラブラと田んぼ道を歩きながらナナミは俺に質問を続けてきた
流石に今回の旅の本当の目的は言わなかったが
ナツメの事はやけにしつこく聞いてきたが俺も知らないことだらけだった

そうしているうちに俺達が家に戻ってきたのは昼前だった
丁度女性がご飯を用意していてくれてので三人で食べた。
ナツメは相変わらず寝ていたが熱は下がり本人も体調も良いと言っていたので大丈夫だろう

173: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:36:15.70 ID:lq98gF540.net
―その日夜、ナナミが寝ると俺の向かいの席に女性が座ると目の前の俺に話しかけてきた

「今日は一緒にナナミと居て貰ってありがとうございます」

目の前で座ったまま女性は一礼をした。
暫く俺はいきなりのことにどうしたら良いか分からずに目の前に出されたお茶を眺めていたがその空気を断ち切るように女性は顔を上げ

「所で、オギノさんはどう思いましたか」
「あの子、ナナミの事」

その言葉に俺は手元に握られたお茶から視線を女性に変える

174: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:41:37.43 ID:lq98gF540.net
「どう、とは?」

「別に変な意味じゃないの、ナナミはオギノさんから見てどう思うかと」

「礼儀正しい子だと思いますけど」
俺がナナミ言われたことは女性に言おうとは思わない

目を閉じてそれを聞いていた女性がしばらくするとため息を吐くような小さな声で話し始めた

「私は実はあの子の実の母親ではないんです」
と、女性は言った。

それから先はナナミが昼間に言った事とほとんど変わらなかった。
しかし女性はナナミとは対照的に重苦しく話す

小さい頃に実の両親が死んだ事、俺は一度聞いたそれら話になるべく驚く表情を作って女性の途切れ途切れの話に耳を傾けた

175: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:44:23.98 ID:lq98gF540.net
しかし、女性の話の最後はナナミと少し違っていた

「だけど実はあの子の母親、つまり私の姉夫婦は死んではいないんです」

「え?」

俺はナナミの話と照らし合わせて聞いていたのでそれまでの話は大抵予想していたが
予想外の事に声が出るほど驚いた。

「姉夫婦は正確には行方不明なんです。」
「警察でも探したんですけど、今の今まで見つからないんです」

俺は女性が語る一語一語に集中をしながら聴き続ける。
話しにいつ相槌を打つべきなのかを頭の中の端で考えながら聞いた

「つまり、ナナミちゃんの両親は死んでいないかもと」

「はい」
それをナナミは知っているのか、それよりも人の家庭内の話に俺が土足で入り込んで良いものなのだろうか。
俺がそんなことを思って沈黙しているのとは対照的に女性は話を続ける

176: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:48:57.30 ID:lq98gF540.net
「ナナミは姉夫婦が行方不明になって私の家に引き取られました」

「引き取られた時からナナミは私たちと違う事を意識しているようで、壁があるんです」
「昔からナナミは家出をする癖みたいのがあって、私たちが気づかないうちに家にいない時があるんです」

旅に出るのは大人になってからだと言っていたはずじゃないか。
俺は深く瞼を閉じ瞬きをすると朝方一緒に散歩をしたナナミに問いかけた。

「ナナミは出かける時はいつも一人で出かけるんです」
「私たちを受け入れないというか、一人になりたいみたいなんです」
「だから今日、オギノさんがナナミと一緒に出かけて何か感じた事はありませんか?」

俺は昼間の会話を思い起こす、ナナミはこの町を出て両親を探すと言っていた
行方不明で安否が分からない両親ではなく交通事故で死んだ両親だと言っていた。

177: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:54:49.44 ID:lq98gF540.net
もしかしたらナナミは勘違いをしているという可能性もあるがしかしあの様子だとそれは無いと思う。

だとしたら、ナナミは女性とは違い両親の行方不明に付いて諦めている

普通は希望を残し、どこかで生きている事を肯定するだろう
もし、死を否定しない子供のナナミは間違っているのだとしたら
もしそうやって考えているのなら

ナナミの言う大人とは最初から死を肯定するのではなくこの女性のようにまだ生きている可能性を信じ
生きている両親を探し出して普通になりたいということなのではないだろうか。

178: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 02:58:02.77 ID:lq98gF540.net
「俺はナナミちゃんとただ散歩しただけですから、なんとも」
「そうですか」と、女性は期待はずれの回答だったのか瞼を閉じてしまった。
そんなこと、俺の勝手な想像だ女性に言えるはずもなかった。

「でも、ナナミちゃんは優しい子ですよ」

あの大雨中、バス停で野宿しようしていたナナミは俺たちを見つけた
今思えばあれはもしかすると家出をしようと思っていたのかもしれない。

「もう寝ますね、おやすみなさい」

俺は居間を出るとナツメの寝ている部屋の前で
「おやすみ」と、一言声をかけて隣の部屋の布団に潜り込んで寝た。

179: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:01:31.47 ID:lq98gF540.net
―次の日になるとナツメもだいぶ体調が良くなって熱もなくなっていた


「オギノさんすみませんでした、体調はだいぶ良くなりましたので」

そう言うナツメは相変わらずの所ひどく他人事のようだがいつもの様に欠伸をしていないところ見るとよく眠れているらしいのが分かった

「そうか、じゃあ明日にここを出るって言うよ」
「そしたら明日には九州に着いてそれから船に乗る予定だ」

「そうですか、もうすぐ終わるんですね」

名残惜しのかそれとも風邪がまだ完全に治ってはいないのかナツメは少し上を向いて虚ろに話す

「まぁな、ここまで一緒に旅をしてきたからな、俺も少し名残惜しいよ」

「そんな事言っていても死ぬんですよね」
ナツメが俺の方を少し見て、変わらないことを確かめえるように見る
「まぁな」
死ぬことに代わりは無い、後にも先にもこの旅の期間は残り8日で終わる

180: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:03:52.86 ID:lq98gF540.net
俺は下に降りると明日にもここから出る事を言う、最後にこんなに泊めさせてもらったんだからと俺は家の手伝いを申し出た。
最後の最後にこの世界に後悔とかを残して起きたくは無かった。

「お兄ちゃん、今日も散歩するけど着いてくる?」

俺が肌を日光に晒し、汗水を流して庭の掃除をしている時、ナナミがいつもの白い服を着こなし涼しい顔で聞いてきた

「いや、今日は手伝いしたいからな、せっかく泊めさせてもらったんだし」

「それじゃあ、私も散歩行くのやめる」

「それでもいいんじゃないか」
と、俺は夏の日差しと暑さに目が眩む中あやふやに答えた

「お兄ちゃん、明日にはまた旅をするんでしょ」

「もう聞いたのか、まぁそうだけど」

「いつかその話聞かせて、大人になった時に参考にしたいから」
そう言われてナナミが俺の旅の目的を知っているんじゃないかと思った
ナツメと似ているからかもしれない、全てを見透かされているような気がした。

181: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:06:51.29 ID:lq98gF540.net
「そうだな、またいつか旅をした時にはここに寄り道してやるよ」

「約束ね」
そう言うとナナミは家の中に入って行ってしまった。

俺は出来ることをして恩返しをしようと思い、その日は雑用から何からしてその日一日を過ごした

夜になって俺は明日の出かける準備を整えているとバックの中から携帯電話が顔を覗かせた。
その存在をすっかり忘れていた事をその時になって思い出し手に取ると下に降りて玄関近くの倒れた木に腰を降ろした
俺はさっそく電源を起動させこの家での出来事を書き始める

182: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:14:17.26 ID:lq98gF540.net
「何してるんですか?」

俺が書いていると後ろから声をかけられた。
突然話しかけられ肝を冷やしながら後ろを振り返ると、女性が貸してくれたパジャマ着姿のナツメが俺の背中にたち俺を見下していた。
「なんだ、お前か」
ここ数日はナツメは寝込んでいたからこうして話しかけられたのは久しぶりだった
ナツメはこれまでの様に俺の横に腰掛けた

「体調は大丈夫なのか?」

「ええ、すっかり良くなりました」
ナツメは自身の健康ぶりを見せるために少し腕を広げる

「そうか、それは良かったな」
俺はナツメの心配を人通り済ませるとまた携帯電話に目をやる

「それでオギノさん一体何してるんですか?」

ナツメが体を傾かせ俺の手元を覗き込んできた
「遺書だよ、書こうと思ってたんだ」

「そんなことしてどうするんですか」

「気休めだよ、これから死ぬんだって意識持たせる為の」

「意識ですか」

「そうでもしないと何の為に生きていて何の為に死のうとしているのかわらなくなるだろ」

ナツメはその言葉に興味を示したのか俺が遺書を書き続ける間にナツメは横で言葉を挟み一緒になって作り上げた。

183: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:17:28.93 ID:lq98gF540.net
「ありがとな、協力してくれて」

「どういたしまして、こういうことは初めてでしたよ」

腕を上げ欠伸をしながら背伸びをするナツメ
初めて、というのは天使としての事なのだろう。
そんな事手伝うなんて確かにあるような経験じゃないもんな

そのときにふと思った
ナツメは俺以外の人にもこうして天国へと導いたのだろうか。

「お前はこれまでにも俺みたいな人を見て来たのか?」

「そうですね、でも私が見る人は結構特殊な人達なんですよ」

「特殊って、例えば?」

「例えばこれまでに、死ぬ程人を殺したい人とか、永遠に生きようとした人だっていましたね」

「その人たちは一体どうなったんだ?」

「私が見て来た人は全員、天国に行きましたよ」

俺は純粋に聞いた。
「なんでそんな人達が天国にいけるんだ?」
ナツメは俺に向ける視線を変える。
それはさっきまでどこか面白げに向けていたような目ではなくちゃんと俺の目を捉えていた

184: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:21:39.15 ID:lq98gF540.net
「人を殺したい人はそれまでその人のことしか見てなかった
だからその人は一ヶ月間色んな人に会って色んなことを学んだんです。
死なんてのは誰にでも訪れるじゃないかって
それは永遠に生きようとした人も同じです
世の中には永遠に生きるどころか生きることを生きる目標にしている人がいると分かったんです。」

「つまり彼らは自分が望む最高の死に気づいたんですよ」

「最高の死か」
俺はナツメのその言葉を反復する

「つまりそれを実現できれば俺は天国へ行けるってわけか」

「まぁ、それが一番ですけど難しいですね」

俺はそのことについて少し考えてみようとしてみたがすぐに考える事をやめてしまった。
今考えたところで俺にはあと一週間あってそんな未来のことは俺にはわからない
だから少し間を置いて俺は話を変えた

185: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:25:30.60 ID:lq98gF540.net
「そうだ、ナナミについてお前はどう思ってる?」

「あの子の事ですか?」
「私は寝込んでいたので会ったのは数回ですが。おとなしい子なんじゃないですか」

そう言うだろうと思って俺は昨日の出来事を思い出しナツメに言い聞かせる。
大人になったら旅に出るのだと言っていたナナミを思い浮かばせる

「それでナナミは旅をするって言ってたんだ」

「どうなんだろうな、ナナミが言う旅って、俺のやってる事と大差ないのかね」
もしそうだとしたら俺は大人なのだろうか
いつの間にか俺は子供とは言われなくなって大人だと言われる様になったけど、いつ大人になったかなんて記憶はない
両腕を後ろに起き体を支えて遠くに聞こえる川の水が流れる音に集中した。

「少なくとも私は、オギノさんがやっていることとあの子がしようとする旅はオギノさんとは違うと思います。」
ナツメは確信を持って言った

遠くから一匹のひぐらしの鳴き声が聞こえる
そうか、もうすぐ9月か、どうりで風が吹くと肌寒いわけだ。

186: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:27:42.99 ID:lq98gF540.net
―次の朝は早くに起きて朝食の準備をナツメと女性がしているのを眺め
四人で食べた。
これから九州に行きそれから種子島で行われる打ち上げの事を話をして盛り上がった

それから俺たちは女性が運転する車で近くの駅まで送ってもらった
車中の助手席から眺める後方席のナナミとナツメは並ぶとより似ているのが分かった

187: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:30:10.34 ID:lq98gF540.net
それから俺たちは女性が運転する車で近くの駅まで送ってもらった
車中の助手席から眺める後方席のナナミとナツメは並ぶとより似ているのが分かった

「それじゃあ、4日間お世話になりました」
車を降りて駅のターミナルでこれまでの礼を言った

「良いの、私の方こそお礼を言いたいくらいだから」

「ナナミもさよなら言よう」

女性はナナミの肩を軽く叩く、それを合図にナナミは口を開く

「お兄ちゃん、気をつけて」

ナナミはそう言うと手に持った小さなお守りを俺に渡した
どこかの神社で買ったものだろう、お守りに神社名が記載されていた

「それじゃあ、気をつけてください」
女性が一礼すると俺とナツメも再び一礼をした。
俺たちはそれに軽く一礼すると駅の改札へと飲み込まれて行った

188: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:36:50.39 ID:lq98gF540.net
―次の日には鹿児島に入り船に乗って種子島に上陸した
「やっと着いたなー」と、背伸びをしてこれまでのことを振り返る

いままで思い出は最初から最後まで嘘のように早く過ぎ去っていった

「ついにここまで来たんだ」
長い旅も最後の舞台まで来たんだ

ナツメを見ると欠伸をして嬉しさに口が動くのをごまかしているようだった
その日のうちに予約していた民宿の宿に荷物を置くと
すぐにも夕食が出されるという事なので俺たちは風呂にも入らずそのまま大広間に案内された

座布団に腰をかけて後ろにカメラを置くと、部屋の端に置かれた大型テレビのこのあたりのニュースを見ながら食事をする

189: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:39:44.24 ID:lq98gF540.net
「君も今回の発射で来たんだろう?」

俺の横に胡座をして座っていたスーツを着て
座布団の横にはカメラがあって新聞記者っぽい歳が40くらいのおじさんが話しかけて来た

俺は口に入っているものを飲み込むんでから返事を返す

「そうですけど」

「いや、突然話しかけてごめんね、君ぐらいの年の人にしては良いカメラ持ってるから」

俺の後ろに置いておいたカメラに視線を移しながら言う

「これ高校の時に金を貯めて買ったんです」

「いい趣味してるね君」

おじさんはそう言うと内ポケットから名刺入れを取り出し俺に名刺を差し出す
名前はナガモトと書いてあった。新聞記者のようで俺の予想は当たってたわけだ

190: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:43:44.68 ID:lq98gF540.net
「君たちはいつまで島に滞在するつもりだい?」

そういうと顔の向きを広間の端に向けテレビ画面を指差す

『明日から種子島周辺、沖縄九州は暴風域に入ります』

天気予報士が後ろの図で詳しく説明するのを俺は目と耳を集中させ聞いた

「あと3日です」
それ以上はないだろう、その確信はどこから来るのか自分でも不思議で仕方がない

「それじゃあ良かったね、明日中には台風も通り過ぎるだろうから」

「ありがとうございます、助かりました」

「いやいや、それより良かったじゃないかカップルでロケットの発射を見れて」
ナガモトさんは人に好かれそうな笑みを浮かべて言う

191: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:46:42.65 ID:lq98gF540.net
するといきなり座布団ごと少し俺の方へと近づき耳元で

「発射の時にいいところを教えてあげるよ」

ナガモトさんは周りの客に聞かれないように俺に体を傾け囁き声で言った

「発射を見学する場所ってのは決められてあるんだけど、そこだと人ごみが邪魔で発射の瞬間がよく見えないんだよ」

「そこでね、見学する場所から少し離れたところにいい場所があるんだ」
と、いいさっき名刺を出した内ポケットから発射上近くの地図を取り出すと見学場所と書かれた場所から離れたところをペンで囲む

「ここは平地で発射台の眺めもいい、ここは知る人ぞ知る穴場でね、ぜひここで見るといい」
そう言って持ってた地図を折畳み俺に渡す

「どうして俺なんかにそんな事教えてくれるんですか?」
俺は少しナガモトさんの顔を不安げに見つめた

「いやね、昔ここでプロポーズしたんだよ」と、囁く声を更に小さくする

「私の時もロケットの発射の時にしたんだけどこれがうまくいってね」と、ナガモトさんは左手を少し上げ薬指に光る指輪を見せつける

「そういう意味でもいい場所なんだよそこは」

ナガモトさんはそう言うと俺の後ろで食事をしているナツメを見やる

「僕は仕事で当日には帰らなきゃいけないからさ」
「幸せにしてみせな、彼女の事」
そういと千鳥足に立ち上がりナツメと俺に手を軽く上げて大広間から出て行った

192: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:51:10.93 ID:lq98gF540.net
ナツメが箸を口元で止めて俺の方を見る
「いや、発射の時にいい場所を教えてもらったんだよ」

「そうですか」と、それ以上には興味を示さないでまた箸を動かした

それからは風呂に入り部屋に戻ると外の風が強く吹き雨戸を叩き始めた

193: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:53:00.02 ID:lq98gF540.net
―次の日に起きると台風が種子島に直撃しているのをニュースで見ながら朝食を食べる
ここの台風は東京の台風よりも強い気がした
これじゃあどこにも行けないと暇つぶしがてら俺は今まで撮った写真を見返した。
これまでは一人趣味で取っていたもんだから人物をメインに撮ったりしたことはないけど自分でもよく撮れている思う。
どの写真も良い思い出となって思い返すことができる
俺の人生の縮図とも言えなくもないこのカメラに記録されている写真達には殆どにナツメが写っていた

「この写真とか好きだな」
俺はそう言ってナツメに見せる。

194: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 03:55:17.77 ID:lq98gF540.net
―次の日に起きると台風が種子島に直撃しているのをニュースで見ながら朝食を食べる
ここの台風は東京の台風よりも強い気がした

これじゃあどこにも行けないと暇つぶしがてら俺は今まで撮った写真を見返した。
これまでは一人趣味で取っていたもんだから人物をメインに撮ったりしたことはないけど自分でもよく撮れている思う。
どの写真も良い思い出となって思い返すことができる
俺の人生の縮図とも言えなくもないこのカメラに記録されている写真達には殆どにナツメが写っていた

「この写真とか好きだな」
俺はそう言ってナツメに見せる。

「恥ずかしいです」
そう言ってナツメはチラッとしか見なかったがきちんと感想を述べた

「でも、オギノさん何でその写真なんですか」

「なぜって?」
俺は好き嫌いの個人的範囲でこの写真を選んだ。だからナツメに首をさされるのに驚いた

195: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:01:16.31 ID:lq98gF540.net
「私は取られる側だったんですけどもっといい景色とかでも撮りましたよね
それに比べてオギノさんが選んだ写真は綺麗すぎないですよね」

確かにこれまでに訪れた場所から考えても絶景と呼べる場所で撮った写真もあった
考えてみればいくらでもある

「この写真、なんだかさどこか大切なことを思い出させてくれるんだ」

「大切なことって?」

「今、俺は生きているんだってね」

「確かにそれは大切ですね」

「無駄な毎日が繰り返されていると思っていたけど、こうして見ると俺は確かにこの約一ヶ月間生きていたんだ」

あの時区切りを付け見捨てようとしたこの世界に価値を求めようとした一ヶ月
「明後日で一ヶ月ですね」

「ああ、だから明日は最高に楽しもうじゃないか」
「そうですね。私もそう思います」

196: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:02:57.21 ID:lq98gF540.net
―今の私がもう天使じゃないことを誰よりも一番私がわかっている。
天使では無いと知ったら彼はどんな表情をするだろうか、それが楽しみでしょうがない
さも当然のように彼は笑って許すだろうか、それとも怒るだろうか

197: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:04:42.16 ID:lq98gF540.net
―朝、窓を見ると昨日の台風が嘘のように空は快晴だった。
「明日か、打ち上げは」
打ち上げが最後の日なのは暗示なのかもしれない

「明日ですね」と、ナツメも語り始める
俺らは朝早くから民宿を出ると種子島を観光することにした

途中カメラ屋に寄って写真をいくつか現像することにした。

それはまるで修学旅行のような楽しさだった
青春を謳歌しないままいまま学生時代を過ごして来た俺に取っては今が一番に楽しく感じられた。
それほどまでに俺のこれまでの生き方はつまらなかっただけかも知れないけど

198: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:08:34.91 ID:lq98gF540.net
俺たちはゆらゆら揺れる夕日を見るために海岸に二人で座り込んで語らった

「明日に俺は死ぬんだ」隣にいるナツメに言い聞かせるように波の音に紛れる

「そうですね」とナツメが言う

「死ぬのが怖くないっておかしいのかな」

「いいえ、おかしくなんてありませんよ、人が出来ることは死を否定することじゃありません、人が出来ることは死を受け入れることです。」
ナツメはそれを言うと黙りこんでしまった。
静寂に耐えかねて俺は携帯電話を取り出す。

「これどうしようかな、書いたのはいいけど今となったら誰にも見せようとは思わないし」

「それにこんなの誰から見てもただの旅行日記のようにしか見えないよな」

遠くの方から帰りの防災無線の音楽が流れているのが聞こえる、波の音と混じってどこか懐かしさを感じることができる。

「最後なんだ」

夕日に向かってそう呟いた、今まで数え切れない程夕日を見てきたけど俺が見る夕日はこれで最後なんだ。

俺は瞼を閉じた。
隣に座るナツメが笑っているようなそんな気がした。
俺は手に握った携帯電話を海へと放り投げた。

思ったよりも遠くに言った携帯電話は遠くで水しぶきとなった
幸いなことに周りにはナツメ以外の人影は見受けられなかった。

「これで良いんだよな」
俺はナツメに聞いた。
「はい」
ナツメはあっさりそう言った。

199: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:14:54.14 ID:lq98gF540.net
その日の夜は自然と寝れたんだ、明日死のうっていうのにおかしな話かも知れないけど。
寝る前にいつもどうりに同じ曲を聞いていつものように目を閉じたら俺はいつしか寝てしまっていた。

そして目が冴えるのも早かった、いつもに比べるとだいぶ早かった
起き上がるとナツメがいなかった
多分そんな気はしていたけど民宿を出て昨日の海岸付近を探すとすぐに見つけた

この一ヶ月でナツメのことをだいぶ分かってきた気がする

「どうしたんだ、こんなに朝早くから散歩でもしてるのか」

「気分転換です」
そう言うナツメは果たしてどんな気分なのか俺は知る由もないけどきっとこれまでにも自殺する人間を見てきたんだ、それなりに気持ちを整理しているのだろう。

「久しぶりだ、こんな時間に起きるのも」

白みがかった空に背伸びをして空気を肺に目一杯取り込む、肺に空気が入ってくるのが分かる

あれから一ヶ月経って俺は色々と変われた気がした


「それじゃあ、そろそろ戻るか」

そうですね、とナツメはその場から離れることを名残惜しむこともなかった。

200: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:17:32.99 ID:lq98gF540.net
―俺たちが発射台に着く頃には見学場所に人々が溢れまだかまだかと発射台を見ていた

そんな中俺達はナガモトさんからもらった地図を頼りに少しずつ人気のない場所へと向かった

言われた通りの場所は目の目に崖がありその周りを木々が囲んであり
地面には芝が生えていてブルーシートでも引けばピクニックでも出来そうな空間だった。発射台の眺めも充分だ
俺はカメラを取り出しその場で一枚写真を取る。

俺たちはそこで暫く発射までの時間を待つことにした。

201: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:25:38.17 ID:lq98gF540.net
俺は一ヶ月前と同じようにこれまでのことを思い出す
一番最初の記憶をたどれば小学生の頃だった

そういえば小学生のことの俺の夢ってなんだったのだろう
とんでもないことを書いた気がするけど今手元に卒業文がないのだから確認のしようがない
中学、高校と歳を重ねるにつれて将来のことは現実味を帯びてくる
そんな俺は今これだけは言えた
自分の描いた理想とはかけ離れた今の自分をどうしても受け入れられなかった
そんな世界があることを受け入れられなかったんだ

202: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:27:34.11 ID:lq98gF540.net
―俺が深呼吸するとその時は突然に来た。
俺は閉じていた目を開けてカウントダウンの数字がアナウンスが徐々に残り少なくなる数字を丁寧に読み上げていくのを聞いた

残り2分、1分、と減る数字に合わせて鼓動が重なり時間が長く感じる。30、20、10
これまでの一ヶ月を思い出す、9、と、どこかで人の声が聞こえると人々はアナウンスを早々に次の数を数え始めた

「3、2、1…!」

203: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:30:37.69 ID:lq98gF540.net
ロケットの下からは水蒸気が飛び出し煙が噴出し始める。
それに対するようにロケットはゆっくりと上がっていく。

見入っていると轟音と強風が体に押し付ける。
俺の鼓動と鼓膜をロケットは震えさせながら打ち上がっていく

上がるロケットの角度に合わせて首を傾かせ、脚を開いて打ち付ける風に耐える

ロケットから出る一筋の雲が青空の中で目印となっていく

空に上がる、雲を突き抜けて天国よりも上がるロケットの白線に俺は見とれた

204: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:33:01.29 ID:lq98gF540.net
「上がった」

俺は首を目一杯に上げ一言そう言い放った。
発射は無事に終わった。
つまりこの旅も最終目的を果たして終わりを迎える
俺はそのまま拍子抜けしたようにその場に崩れて座り込み芝の上へと寝転がった

「上がりましたね」
ナツメも言葉を絞り出すように言った。呆然とロケットの雲を追いかける

「成功だよ、雲より上の天国を突っ飛ばして宇宙の果まで行くんだ」

青空に一筆に書かれたように白線がぼんやりと残る空を見る

空がこうも綺麗だった事を今まで気づかないなんて、なんて愚か者だったんだろう、空を見上げることをどうして嫌がっていたんだろう

子供から夢に見てた空がそこには広がっていた

「こんなに綺麗なんだな空って」

人がなんで天国を目指すのかがわかった気がした

「そうですよ、あなたが気づかないだけです」

「愚かだな俺は」

205: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:35:58.50 ID:lq98gF540.net
「俺が屋上でお前に会ったあの時、自殺しようとした理由は簡単なんだ、誰かが自殺は家族や知り合いが悲しむからなんて言う人がいるだろ」
「でも、俺は『悲しむ人がいるのならそれは幸せなのではないか』と考えているんだ」
「その人を思っている人がいるなんて幸せだろ?
だったらどうなるか分からない将来に期待して死ぬより幸せも不幸せもちょうど真ん中のこの時に死んだほうがいいんじゃないかって思ったんだ」

「過去は後悔しか生まないし未来は不安しかないと」

「こんな世界はそんなことしかないって」

「でもそれは俺の思いすごしだったんだな」

「ある人は一生をかけても人並みの幸せは手にいられないことだってあるのに、俺はそんな事を分かりきったうえで死のうとするんだ。」

「俺はこの一ヶ月、いや生まれた時から死ぬことを生きる目標にしていた」
「そんな俺に、端から価値なんてなかったんだ」
「初めから価値がないことを知っていながらこの一ヶ月を生きようとした、それも含めて俺は愚か者さ」

206: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:37:12.80 ID:lq98gF540.net
「そうですよ、愚かですよ」


「でも、一番の愚か者は私です」
そう言ってとナツメは寝転がる俺に顔を向ける
「私はもう天使なんかじゃありません、私はもう神様に見捨てられたんです。」

「見捨てられたって、つまりどういう事だ」
俺の疑問に目を伏したナツメは話始める

207: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:39:34.34 ID:lq98gF540.net
「私はオギノさんと過ごしたこの一ヶ月を繰り返してきました。」

「一ヶ月の実らない恋を繰り返していたんですよ」
「今まででどれだけの時間あなたとこの一ヶ月間を過ごしてきたのか、私にもわかりません」

「私はあなたと一緒に日本中を旅しましたいろいろなことがありましたよ」
「そしたら、いつの日にかこの旅も終わる時が来てあなたは私を置いて死んで行くんです」

「私は今までにも何人もの人を目の前で死ぬところを見届けてきましたけど」
「でも、あなただけは違っていた」

「最初にあなたと江ノ島に行きましたよね。あそこでオギノさんは最初、私にこう言ったんですよ」

『誰かの幸せのためにある死は最高に価値があるんだろうな』

「そんな事を言われちゃいました。」
「死ねない私からしてみれば誰かのためにある価値ある死なんて考え、思っても見ませんでした」

「だから私はそんな事を言うあなたともっと過ごしたいと思いました」
「あなたのことをもっと知りたいと思うようになりました。」

208: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:40:57.15 ID:lq98gF540.net
「あなたが死ぬと私は時間を戻してまたあの屋上へと立つんです、オギノさんと初めて出会う場所はあそこですからね。」

「でもひとりの人間にこんなに思い入れを入れるために時間を戻してたなんて」

「そんな事をしていたら、当然怒りますよ。神様だってそこまで神様じゃありませんよ」

「だから今の私の背中には翼がありません、今の私にはもう時間を戻すことはできません」

「私の進む道はもうここで私は終着です、私には前も後もありません」
「神様に見捨てられた、そんな私には価値なんてありません。今のあなたと同じです」

「だから今ここで私は死ぬんです」
「無価値なあなたの為に死のうと思うんです」

「死ねない天使が死んだなんてそんな事聞いたことないですけどね」

209: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:42:37.21 ID:lq98gF540.net
ナツメはロケットを追いかけるように頭上の空を見上げながら寝転がる俺に問いかける。

「それじゃあ、オギノさんはこれからどうします」

「あなたが今ここで死ねば無価値で死ぬことになるでしょう」

「その場合、死んだ先に行くのは私にもわかりません」

「でも、ひとつだけ」
「私と過ごしたこの一ヶ月間の記憶をなくして残りあるあなたの命を全うして生きていけば
この一ヶ月の価値よりもっと価値ある死を迎えることが出来るかも知れないんです。」

「それは一生をかけても手にいられないような幸せだとしても、あなたはそれを捨ててでも今死にますか?」

俺はナツメが言う言葉、一語一句をもう視界には見えないロケットの音にかき消されないように聞いていた。

210: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:44:52.65 ID:lq98gF540.net
ナツメのその問いかけはいつものように淡々としていた。
幸せも後悔も。俺はこれまでの事を一つ一つ思い出す。
丁寧に思い出した。そして俺は答えを出す。

「俺の未来がそんなに幸せだろうが、これまでの俺がどんなだったとか」

「それでもお前と過ごした一ヶ月のこの旅は俺に死ぬだけの価値をもたらそれに替りはないんだ」
「俺はこれから最初の予定通り死ぬ、例えそれに価値がないと言われても、俺は今やっと死に対する自分だけの答えを見つけられたんだ」

「お前に言われてやっと分かった」


「俺はお前の為に死ぬ。」

「俺に人の為に死のうとさせた」
「それだけの価値をもたらしたお前に神様が無価値だと言うのならば、俺がお前に価値があると神様に言ってやるよ」

211: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:46:26.11 ID:lq98gF540.net
この一ヶ月、ナツメと生きた日々が厚みを持って今、鮮明に思い出せる。
この旅は俺に今まで以上に生きる価値をもたらした最高の死の旅だった。
ナツメがここで旅を終わらせるというのなら俺もこの旅を終わらせる。
これまでナツメがしてきたように俺はナツメと一緒にいようと
今、そう思えた。

「そんな事したら神様に対して反逆行為になりますよ」
そう言うナツメは俺をいつものように止めるでもなく楽しそうにロケットの白線を見上げて話す。

この旅でいつの間にか俺はナツメのこの顔を見ることが好きになっていた。
だから今こうして空を見上げるナツメのことを笑わせてやろうと思えた。

212: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:47:40.50 ID:lq98gF540.net
「いいさ、お前が俺にくれた一ヶ月の価値、それを無価値だと言う神様を否定してやるさ」

「本当に愚かですね、神様に反抗しようとするなんて」
クスクス笑いながら消えていく白線を見つめるナツメの後ろ姿の横に重なるように俺は立ち上がりナツメの横に並ぶ

213: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:49:20.98 ID:lq98gF540.net
「自分の為に無価値な人間が死なれて不満か?」

「ええ、本当に、無価値な二人ですよ」
「神様に言ってやりましょうよ、無価値と言われた私たちはお互いに寄り添うことで価値ある死に変えた、最高に幸福な死だって」

「そんな二人が行くのはどこ行きでしょうかね、天国行きですかね、地獄行きですかね」

「天国でも地獄でもどこへでも連れて行ってやるさ」

「それってもしかして告白の言葉かなにかですか」

「ああ、無価値である俺なりの最高の謳い文句さ」

「オギノさんらしい告白ですね」

214: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:50:38.99 ID:lq98gF540.net
目を瞑ったナツメは笑いながら言う。俺はそういうところが好きなんだ。
そう実感した、ナツメの横に立っているだけで幸せを感じられた。
一ヶ月でそう思えた。死の価値は無いけど、そんなことはどうでもいいと思えるほど今の俺は幸福に満ちていた。

ただ俺は恋に痺れているだけさ
だからこの死は最高に価値ある死だと言い切れた

「お前笑ったほうが可愛いぞ」

「知ってますよ、あなたといると幸せですから」

「そうか、それじゃ俺も幸せだから笑っているのか」

ナツメは俺の手を取る

「幸せ者だな俺たちは」

「ありがとうございます、オギノさん」
「私にとってこんなにも価値のある日はありません、最高に幸せです。」

215: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:51:50.76 ID:lq98gF540.net
俺はナツメのその言葉に賛同するようにナツメの手を握り返して、呟く

「それじゃあ行こう」

「はい」

「3…!」

「2…!」

「1…!」

216: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:52:47.80 ID:lq98gF540.net
おわり

217: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 04:53:46.68 ID:lq98gF540.net
ここまで見てくれた人ありがとう!

218: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 05:01:42.27 ID:/0PvkdV/0.net
乙乙
なかなか楽しめた
でも本当に死んじゃったの?

219: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 05:13:29.83 ID:WwDZcJEV0.net
長い
産業で
お願い

223: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/10/16(木) 08:44:16.33 ID:kzFpybhE0.net
>>219
主人公が死を決意してビルの屋上へ行き、そこで天使に出会う
このままじゃ天国へ行けないと告げられ、主人公は天使と一緒に1か月の旅に出る
天使は主人公と恋におち堕天使になる。二人は運命を共にする

出典: 自殺しようとしたら天使に出会った話