俺と沙織の結婚式の時。 

早くに父を亡くした俺と母を助け、とても力になってくれた叔父貴と久し振りに会う事ができた。 
叔父貴はすでに八十を超える高齢だが、山仕事と拳法で鍛えている為とても年齢相応には見えなず、沙織の親族からは俺の従兄弟と勘違いされるほどだった。 

ピシッとした紋付袴姿で軽トラから現れた叔父貴が助手席から幾重にも包まれた長いモノを取り出したとき、俺はそれがあの刀だと直ぐに判った。 
かつて自分が幼き頃、叔父貴の家で出会った刀。 

そして、その精霊。 
彼女は己を俺の物として欲しいと言った。 
叔父貴は刀が欲しいとねだる幼い俺にこう言った。 

「この刀は、独身の男が持つと魂を魅入られてしまう。 だからお前が将来、この刀の精霊に負けない程の女性を妻としたらお前にやろう。」 と。 

叔父貴に駆け寄りその逞しい拳を握り締め、挨拶をする。 
そして、沙織を紹介した。 

「……うむ、お前の事だから素晴らしい女性を娶るとは思っていたが、まさか女神様を娶るとは思わなんだ。あの時の約束通り、結婚祝いにこの剣はお前に譲ろう」 
俺たちはその言葉を聞いて驚愕した。 
なぜなら、叔父貴にはまだ沙織との馴れ初めは話していなかったからだ。 

しばらくは忙しい日が続き、新婚旅行から帰ってきて一段落した後。 
俺は叔父貴から頂いたあの刀を取り出し、鞘から抜いてみた。 

幼い頃に見た時と全く変わらない静謐さと艶かしさを併せ持つその刃に惚れ惚れとしていると、先に休んだ筈の沙織が起きてきた。 

どうしたのかと誰何する自分に沙織が答えた。 

「その剣に、起こされました。」 
その時、唐突に電気が消えて居間は漆黒の闇に包まれた。 

「……来ます。」 

沙織が呟くのとほぼ同時に、沙織と自分の間に青白い光が湧き溢れ、水晶の様な硬質な輝きを持った半透明の少女が現れた。 

「○○(宮大工氏)、久し振りですね…」 

俺と、そして沙織の精神の中に言葉が響く。 
そこには自分が少年の頃、叔父貴の家で逢った刀の精霊が顕現していた。 

「そして人ならざるお方、お初にお目に掛かります…」 
精霊は沙織に顔を向け、恭しく礼をした。 

「○○、新たに私の主となられた男よ、私を抜く時には心を砕きなさい…私は命を断つ為のモノ。そして、闇も、光も断つことが出来る。なにものをも切らない事も出来る。お前ならば大丈夫でしょうけれど…」 

「刀の精霊よ、○○様ならば大丈夫です。その様な方だからこそ、私が結ばれることが出来たのですから」 
沙織が応えると、精霊は清楚な、そして少しだけ妖艶な微笑を浮かべた。 

「大いなるお方よ、よく存じております。しかし、それもまた少し残念…私は、生かす為よりも切る事を命としているのですから…○○よ、努々忘れることなかれ。私は主の意思にのみ沿うモノである事を…」 
今、刀は我が家の床の間にて鞘に収まり、静かに眠っている。 
しかし、ごく稀に鞘から抜き放つ誘惑に負けることが有る。 
鞘から抜き放ったときに刀が見せる顔はいつも異なる。 

いつか、禍々しい誘惑にける時が来ないように精進しなければと刃に写る自分に言い聞かせている。