晩秋の頃。 

山奥の村の畑の畦に建つ社の建替えを請け負った。 
親方は他の大きな現場で忙しく、他の弟子も親方の手伝いで手が離せない。 
結局、俺はその仕事を一人で行うように指示された。 

その社は寺社のような大掛かりな建物ではなく、こぢんまりとした人一人が入るのがやっとの大きさで、中に親子の狐の石像が祭られている社だ。 
一応稲荷と言えるが、地元の年寄りが掃除をする位の土着の社神である。 
良く手入れはされているものの、ここ何十年以上も手が入っておらず痛みは激しい。 
そこで、近所の農家のお年寄りがお金を出し合って建替える事にしたのだ。 


小さいと言っても建替えとなればまとまったお金は要る。 
農家のお年寄りが出せる精一杯の額だろうが、その額は材料代にも満たない額。 
しかし親方は、「ようがす。これでやりましょう。」と引き受けた。 

馴染みの稲荷神社の神主さんにお願いし、祈祷をして貰った翌日。 
車に道具と荷物を積み、現場へと向かう。 
お社の前でお祈りをしてから社の中に入ってみると、仔狐を背中に乗せ、ちょこんと座っている可愛らしい親子の狐像が鎮座していた。 
手を合わせ、 
「お狐様、しばらく仮住まいに移って下さいませ」 
とお願いし、 弟弟子と一緒に丁寧に拭き上げ、そっと運び出す。 
前もって造ってあるミニ社を畦道の片隅に置き、そっと親子狐様を安置した。 

翌日からは俺一人で仕事に向かう。お社を丁寧に解体し、使える材料を選り分ける。 
昼飯は近所のおばあちゃんが交代で弁当を持ってきてくれる。 
昔ながらの田舎弁当が嬉しい。 
十時と三時には漬物でお茶だ。ほっと一息つく、至福の時である。 

ある日のお茶の時間、一人のおばあちゃんが 
「○○ちゃん、わしらの出したおぜぜじゃあホントは足らんのじゃろう」 
と言って来た。 

「そんことは気にしなくて良いんですよ。親方がやる、と決めたんだから問題ないです」 
「すまんのう、ただ働きみたいな事させちまって…」 
「俺達は、ただ金の為にこの仕事してるんじゃ有りませんから心配しないで下さいね。」 

おばあちゃん達は涙ぐみながら、 
「あんがとね、あんがとね」と繰り返した。 

そんな経緯もあり、俺の仕事に更に気合が入った。 
金や名誉より、人や神様仏様との触れ合いや心の繋がりこそがこの仕事の醍醐味なんだと改めて感じた。
そして、そろそろ初雪が来るだろうとおばあちゃんたちが話す中、お社は完成した。 
その夜親方に完成報告をし、翌日同行して確認して貰える様お願いした。 

翌朝起きると、とうとう降りて来た初雪で家の周りは一面の銀世界。 
「ホントにギリギリだったな…」と呟き仕事場に向かう。 

すると、親方が玄関の前にしゃがみ込んで首を傾げている。 
「おはようございます。玄関先でしゃがみ込んでどうしたんですか」 

「おう、おはよう。○○、こりゃなんだと思う?」 
サクサクと雪を踏みしめながら玄関に向かう。 

すると、親方の前には幅広の笹の葉に乗った古銭がじゃらっと置いてある。 

「なんですか、こりゃ?」 
「わかんねえ。朝起きたら有ったんだ。」 
ふと周りを見回すと、獣の足跡が大小二つ、雪の上についている。 

俺ははっとして、その足跡を追ってみると、お社の有る村の方から続いている。 

「親方、この足跡見てください。」 
足跡を見て、親方がはっとした顔をしてから顔を綻ばせた。 

「おう、なるほどなぁ...義理堅い稲荷様だなぁ。こんなに貰っちゃあ、これ以上頂くワケにゃいかねえな。」 
親方は俺の顔を見て、にやっと笑う。 

「さ。行くべか!」 
「はい!」 
俺達は車に乗り込むと、小さな足跡を追うように車を走らせた。