出典: 後味の悪い話 その144

724: 1/6 投稿日:2013/11/08(金) 02:27:39.37 ID:hvjnZ4jJO
高橋葉介「夢幻紳士」から「幽霊船」

このシリーズの主人公、夢幻麻実也はオカルト的能力を持つ美青年。

客船で旅行中の麻実也、甲板で夜風に吹かれていると幼女の水死体の幽霊を見た。
幼女の指差す先には、初老の紳士が佇んでいる。
「美しい月夜ですね…なのになぜ浮かぬ顔をしていらっしゃるのです」
麻実也が水を向けると、紳士は訥々と語った。

紳士は学者で、随分年下の美しい妻を娶り幸せだった。
しかし、妻と若く美男の弟子が近づきすぎるようだと疑心暗鬼になった頃、妻が妊娠した。
子供を持つのを諦めていたので喜んでもいいはずだが、妻と弟子が密通していると思い気が晴れない。

725: 2/6 投稿日:2013/11/08(金) 02:29:13.04 ID:hvjnZ4jJO
娘は妻に似て美しく育ったが、紳士には似ていない。
弟子に似ているのでは?と思い、他人行儀になる。
妻は紳士の冷たさをなじった。

妻が一人で出掛け、紳士がずっと書斎にこもっていた日、庭で遊んでいた娘が古井戸に落ちて死んだ。
娘の声が聞こえたはずだ、貴方はずっと娘に冷たかった、娘を見殺しにしたのだ、と泣き叫んだ妻は実家に帰った。
紳士は仕事に没頭する性質で、娘の声は本当に聞いていなかった。
しかし、妻の貞操を疑う卑しい心が娘の助けを求める声をシャットアウトしたのではないか?
娘はたった五歳で死んだのだ。

自問自答する紳士を置いて甲板を歩くと、若い男の水死体の幽霊を見た。

726: 3/6 投稿日:2013/11/08(金) 02:31:43.79 ID:hvjnZ4jJO
水死体の指差す先には若い酔っぱらいがいる。
麻実也が水を向けると、青年は訥々と語った。

青年はとある名家の使用人の息子で、同い年の嫡男Aの遊び相手だった。
Aは成績優秀、容姿端麗、頭脳明晰、温厚かつ明朗な性格で心が広く、そのせいで青年は劣等感に苦しんだ。
青年は頭がよかったので、A父の厚意でAと同じ大学に行かせて貰っていた。それがまた青年を苦しめた。

Aはカフェーの女給に憧れて、店に入り浸り匿名で下手くそな詩を送りつけるようになった。
だが、育ちがいいので口説くでもなくセクハラするでもない。
青年から見ればつまらぬ女だが、Aは女神のように崇拝している。

727: 4/6 投稿日:2013/11/08(金) 02:33:51.95 ID:hvjnZ4jJO
青年はAの気の迷いを晴らしてやろうと、金で女給を口説き、寝た。
そして、拾円札(舞台は戦前)で喜んで裸になるような女は高潔な君に相応しくない、御尊父が悲しむ。と友情から忠告した。
Aは入水自殺した。遺書はなかった。
卑しい使用人根性が前途有望なAを死なせてしまったのだ。

酔っぱらいを置いて甲板を歩くと、寂しげな美少女がいた。
麻実也が水を向けると、彼女は訥々と語った。

彼女の母は妾だった。
父と母が相次いで死に、途方にくれていたら父の本妻が彼女を引き取ってくれた。
本当の母子のように助け合って行こうねえ、と言った本妻を、彼女は仏様のようだと思った。

728: 5/6 投稿日:2013/11/08(金) 02:36:13.76 ID:hvjnZ4jJO
本妻は使用人を全員辞めさせ、主人が死んでしまったから節約しないとね、と言って彼女をこき使った。
来客に茶を出せば、
「ホラあれが妾の子ですよお恥ずかしい。行く所がないと言うから置いてやっているのにあたしが死ねばいいと思ってるんですよ」
と憎々しげに吐き捨て、客が縁談を持ってくれば、妾の子では先方に失礼だからと全部断る。

「いつまで居座るつもりなんだい、母親を見習って馬鹿な男でもくわえ込んで駆け落ちなさいな」
母親まで馬鹿にされた彼女は、睡眠薬を常用して寝ている本妻の顔に濡らした和紙を貼り、金を盗んで家を飛び出した。

彼女が語り終えた時、船底で爆発が起こった。

729: 6/6 投稿日:2013/11/08(金) 02:38:42.39 ID:hvjnZ4jJO
海に落ちた麻実也は彼女に手を伸ばしたが、届かなかった。
紳士は娘の、酔っぱらいはAの幽霊に抱きつかれて海底に沈んだ。

麻実也は救助されて病院に収容された。
翌朝、病院の庭に出た麻実也の前を、意地悪そうな老婆に付き添われた美少女が通り掛かった。

「家出なんてひどいじゃないか、心配させないどくれ」
「お前の浅はかな考えなんかとっくにお見通しさ、あたしゃあの日、わざと睡眠薬を飲まなかったんだ…今まで通り二人仲よく暮らして行こうじゃないか、これからもずっとね」
呆然とした美少女を抱きかかえるように寄り添う老婆は、実に楽しそうに彼女の耳に囁いていた。

734: 本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/11/08(金) 15:27:20.94 ID:OdAKNMiy0
>>729
これ読んだ事ある
最後の老婆は麻実也の目には骸骨に見えてたような気がする
美少女が老婆を殺したのに化けてまで美少女を苦しめるのかと後味悪かった

730: 本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/11/08(金) 07:08:38.89 ID:egnZjmSR0
その話は不気味だったな
こういう展開だと魔実也が助け舟出すことが多いのに、そのままオチになったから驚いた

739: 本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/11/08(金) 17:06:19.90 ID:fLIQ9Q3j0
724-729
回帰編(リメイク版)は個人的にもっと後味悪い。

船が沈む辺りまではほぼ同じだけど、気がつくと少女と魔実也は船の残骸に乗って海を漂っていた。
「船はとっくに沈んでいたんですよ」と言う魔実也。
しかし、少女には本妻の幽霊が見える。
私を連れて行こうとしている、と怯える少女に魔実也は言う。
「あれはあなたの意識が作り上げた“影”だ。あなたは人を殺してなどいない」
そして本妻(の影)の声が聞こえる。

>「お前の浅はかな考えなんかとっくにお見通しさ、あたしゃあの日、わざと睡眠薬を飲まなかったんだ…
>今まで通り二人仲よく暮らして行こうじゃないか、これからもずっとね」

少女は悲鳴を上げ、魔実也の制止を振り切って海に飛び込む。
「生きてあの家に帰るくらいなら、これ(本妻の影)と一緒に海に沈む方がよっぽどましだわ!」

紳士は娘の霊に、酔っぱらいはAの霊に、少女は本妻の影に抱きつかれ海の底に沈んでいった。


ひょっとしたら本妻はやはり殺されていて、
少女が魔実也の説得(罪の意識を軽くする為に“殺していない”事にしようとした)で
生き延びようとしているのを邪魔してあの世に引きずり込んだのでは…?
そんな感じがして、更に後味悪かった。
本妻が生きてたら「あの家」に帰らざるを得ない。
死んでいたら幽霊に取り憑かれて永遠に逃れられない。
結局、本妻が生きてても死んでても、少女にとってはどっちも地獄なんだよな…