821: 1/5 2009/01/10 16:34:30 ID:vZ3mBDAi0
私には4年程前から付き合っている3歳年上の彼氏がいます。
彼には独特で変わった趣味が在り、時折その趣味の存在が
私の恋心を萎えさせてしまう事があります。
彼の趣味とはオカルトです。
彼は幼少の頃から霊の存在を認識しており、研究して来た
と言います。私も子供の頃は心霊関係のテレビ番組を見た
りはしましたが、ああいう物はテレビの中の世界であって
現実に持ち出す様な物ではないと思っていました。
でも彼はオカルト的な事を普段は話しません。言わなけれ
ば、彼の趣味がオカルトだなんて誰も判らないと思います。
一部を除けば、彼は至って普通の青年でした。
そんな彼と私はGWの連休を利用し、私の実家へ遊びに行き
ました。実家には母と高校2年生の妹、美緒子(仮名)がい
ます。父は15年前に病気で他界しているので居ません。
彼と私の家族は今までも何度か対面していて既に知った仲です。
実家の居間で私と彼、そして母の三人で談笑していると
妹の美緒子が外出から帰って来ました。
「おかえり」私がそう言うと美緒子は顔も合せずに、そのまま
自室へ行ってしまいました。美緒子に会うのは正月連休以来
でしたが、以前とは全く雰囲気が違いました。
「美緒子、様子が変だけど、なんかあったの?」
そう母に問掛けると母の顔まで暗い表情になりました。
母は重い口調で美緒子に何があったのかを語りました。

822: 2/5 2009/01/10 16:35:58 ID:vZ3mBDAi0
それは、この日から3週間程前の事です。美緒子の友人の
女の子が自殺し、この世を去ってしまったのです。しかも
美緒子が遺体の第一発見者でした。死因は首吊り自殺に依
るものだそうです。
美緒子は友人の自殺にショックを受け、塞ぎ込んでしまい
ました。自殺の動機は遺書などが見つかっておらず、判ら
ないそうです。
「どうして、その事を私にもっと早く言ってくれないの?」
私は少し強い口調で母に言いました。妹が苦しんでいる事
を今の今まで知らなかった事が悔しく思えました。しかし
母は母なりに私に気遣った様で、余計な心配をかけたくな
かったそうです。
私がそれに対し、反論しようとすると彼が間を突いて、こ
う言いました。
「美緒ちゃんと話がしたいんだけど、良いかな?」
そう言うと返事を言う間もなく彼は立ち上がり、美緒子の
部屋へと向かって行きました。私や母の制止などお構いな
しです。
私も彼の後を追い掛けました。すると彼はノックもせずに
美緒子の部屋のドアを開け、一気に突入して行きました。
私は「ちょっ!おい!おま!おい!」と言いながら彼の後
に続きます。その瞬間、私の背筋は凍りつきました。美緒
子が剃刀を自らの喉に当てていたのです。「美緒子!!」
私がそう叫ぶと同時に彼は美緒子の手を掴み、そのまま何
も言わずにそっと美緒子の手から剃刀を取り上げました。
「大丈夫」彼がそう言うと美緒子の目から涙が零れ落ちま
した。声も上げず、ただ中空を見つめながら美緒子は呆然
と泣いていました。

823: 3/5 2009/01/10 16:37:15 ID:vZ3mBDAi0
私は頭が混乱しました。「何?なんなの?なんで?」
出る言葉はそればかりです。
「落ち着いて」彼は私にそう言うと美緒子をベッドに座ら
せました。私も腰が抜けて、その場に座り込んでしまいま
した。
彼は何も言わずに泣くだけの美緒子の目を凝視していました。
暫くして彼は溜め息をつくと「大変だったね、美緒ちゃん。
もう大丈夫だから」と言いました。私は彼に「どういうこと?」
と聞きました。すると彼は「美緒ちゃんは誰かに呪われていた」
と言いました。私は一瞬、ふざけないで、と言いそうにな
りましたが、彼の真剣な表情に言葉を飲みました。彼は美
緒子が誰かに呪われていて、殺されかけていたと言います。
そして人を呪い殺すなど並大抵のことではなく、ここまで強い
呪いは滅多に存在しない、とも言いました。私には俄かに信じ
難い事でした。
彼は部屋の中に在った美緒子の鞄を手に取ると、そこから見覚
えのある飾りを取り外しました。それは以前、御守りだと言って
彼が私の家族にプレゼントしてくれた物でした。
「こいつが役にたったな」彼はそう言うと御守りに紐を通し
それを美緒子の首に掛けました。「これで暫くは大丈夫だ」
それから一晩、徹夜で彼と私は美緒子を見守りました。

824: 4/5 2009/01/10 16:38:24 ID:vZ3mBDAi0
翌朝、彼と私は美緒子を車に乗せ、彼のオカルト仲間の
田所さん(仮名)の所へ向かいました。彼は問題の解決を田所さん
に託しました。
田所さんのマンションに入ると既に準備が整っていました。彼が
結界と言うそれは私の目には異様に映りました。
田所さんは美緒子を見るなり「こんな大物、どこで拾って来たんだ…」
と言って怪訝な顔をしました。
そして田所さんが私に言った事は、美緒子にかけられた呪いが非常に
重い事。もし彼の御守りがなければ、とっくに美緒子は死んでいた事。
彼の御守りは守護霊の力を増幅する物であり、美緒子の守護霊である
私達の父が頑張ってくれた事。
私は複雑な思いに駆られました。
その後、田所さんに美緒子を預け、私と彼は外に出ました。
彼の知り合いだから疑ってはいないけれど、田所さんがどんな人
なのか彼に聞くと「呪い返しの専門家」と彼は答えました。美緒子に
かけられた呪いを払うのではなく、倍にして返すのだと言います。
彼は低い声で「返された奴は死ぬだろうな」と呟きました。
続けて彼は言います。「美緒ちゃんに呪いをかけた奴は美緒ちゃん以外
にも呪いをかけている。その結果、その子は死んでしまったのだけれど
その子の怨みも呪いをかけた奴に返すんだ。流石に耐えられないだろ。
因果応報だ」
彼の表情に揺らぎはありませんでした。

825: 5/5 2009/01/10 16:39:26 ID:vZ3mBDAi0
その後、美緒子は二度と自殺を試みる様な事は致しませんでした。
しかし、友人の自殺体を見てしまった事や自分が自殺しようとした事の
精神的ショックまで解消された訳ではなく、あれから2年が過ぎた今も
美緒子は病院の精神科に通い続けています。
何故、美緒子が呪いを受けたのか。美緒子は何も語ろうとしません。
田所さんや彼は理由を知っているのかもしれません。しかし、私には
聞けませんでした。これ以上、足を踏み入れてはいけない気がしたんです。
あの日、美緒子が剃刀を握り、自らの喉に当てていた、あの瞬間に
私は美緒子の側に立つ何かを見ていたのです。
今もあれは錯覚であると信じたいのですが、思い出すと全身が震えてしまいます。
私があの時、何を見てしまったのか、知るのが恐いのです。


おわり。

出典: 死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?204