640:金土日◆B/2ch/ss26:04/08/1623:06ID:m17mKrjq
学生時代の話。

期待に胸を膨らませて、地方の駅弁大学へ入学した。
周囲は知らない人ばかり。
そんな中で、ひょんなところで最初に知り合ったのがシンジだった。
シンジとは結構馬が合って、授業が終わっても一緒に遊んだりしていた。
とはいっても、あまり恵まれた環境ではなかったみたいで、服はチェックのシャツを数枚持っているだけで、夏も袖をまくって着ていた。
ただ、汚らしいイメージはなくて、男性にしては珍しくアイロンがけとかしていて、それなりに清潔な身だしなみだった。

シンジの下宿にも何回か遊びに行った。
古ぼけた下宿の4号室。半畳の土間の横は、作りつけの箪笥。
部屋は4畳で狭かったが、いつも几帳面に片付けていた。
「俺ってあんまり恵まれてないからさ、狭い下宿でゴメンね」
と、すまなそうな顔を彼がするたびに、気まずい気持ちになっていた。

3年の終わりから、暫く個人的な問題で気が滅入っていて、正常な思考が出来なくなっていたが、なんとか4年に進級して、学校にも通うことが出来た。
しかし、何故かシンジが来ていない。
4年になって殆ど単位を取得したのかな、と思いながら、シンジの消息を聞いた。


641:金土日◆B/2ch/ss26:04/08/1623:08ID:m17mKrjq
「シンジって誰だよ?」
全員の返事だった。
「ちょ、ちょっと待てよ。
ほら、一緒にシンジの部屋へ行ったときに、『狭い下宿でゴメンね』って、すまさそうな顔を……」
といいかけたとき、俺は気づいたのだ。

記憶の糸が少しずつ解れて行く。おかしい。奇妙なことが多すぎる。
すまなそうな顔をしたシンジの顔が思いつかない。苗字も知らない。
あいつの学籍番号さえ知らない。
何故だ?何故だ?だってあいつの下宿は……
考えてみればおかしいことばかりだ。
あいつの部屋って、そういえば3号室のドアと5号室のドアに挟まれてたぞ。
普通、部屋があるからスペースがあるじゃないか。
あいつの部屋、4畳のはずだったけど、正方形だったよな。
4号室、4畳、下宿の住所『○○944番地』、いなくなったのが4年の4月……
執拗に重なる『4=死』のイメージ……
あいつの名前、シンジ……シンジ……信士?戒名???
俺は全てがわからなくなって叫んでしまった。

暫くわけがわからず、授業にも出ずにすごしていた。
あれは俺の思考回路がおかしくなったときに、バグとして挿入された偽記憶だったんだろうか。
彼がいた(と思っている)下宿にも行ってみたが、3号室の隣は5号室だった。
窓を開けて一緒に見た景色も、隣も、下宿の壁でありえないものだった。


【出典:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?82】



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