gurisu


私が中学生だった時、クラスにちょっと頭の不自由な子がいました。
実際に、けっこう無理はありましたが、いちおう普通のクラスで普通に勉強していました。
親の希望もあってナントカ学級には行きませんでした。
クラスでもちょっとおかしいところはありましたが、なんとかクラスにとけこんでいました。
が、時々理解不能な奇行をしました。
その子と仲良くしていた女の子が、乱暴まがいの事をされたこともありました。
その他にも、奇声やパニックなど茶飯時で、私のクラスにはある緊張感が漂っていました。
みんなその子になるべく触らず、かつオミソにして、機嫌を損ねないよう細心の注意を払っていました。

ある日の国語の時間でした。
先生が
「……は~との潤滑油のように……」
というような文章を読んだあと、
「あー。えーと、潤滑油って英語でなんて言ったらいいかな……」
と言いました。
するとその子が、
「グ……グ……グリ……」
と、斜めに頼りなげに手を上げて言っています。
ここでみんなの頭の中には、「グリス」という言葉が浮かんでいましたが、その子が言おうとしている、言わせたほうがいいだろうと、誰も言おうとしませんでした。
しかし先生は、
「えー。なんだっけ。えー」
と言いながら、その子に気付きません。
ついに、
「おい、●●(私)なんだっけ。言ってみろ」
と言いました。

よっぽど「わかりません」と言おうと思いましたが、
「……グリスです」と言ってしまいました。

しかし先生が、
「あー。そうかそうだったな。グリス」
と言っているだけで、別になにもありませんでした。
その子も別に奇行もせず、いつもどうりニコニコしていました。
よかったー。少し心配しすぎだよな。俺ら。と思いなおし、授業の後もわざわざ話題にもしませんでした。
そしてその事は、放課後にはすっかり忘れてしまいました。

次の日、俺は朝練のため教室にはいつも一番にくるのですが、いつも通り教室には誰もいません。
しかし、自分の机、教室の一番前の窓側の席を見ると、なんか異様です。
テカテカ光ってます。なんだ?と思って触ると、ヌルッ!とします。……グリスでした。
机も、椅子も、スチールの支柱まで、中の教科書まで、全てグリスでギトギトに塗ってあります。
本当に、ゾーーッとしました。

「あいつだぁ……」
と一発でわかりました。顔面は真っ白だったはずです。
その時、背後に気配を感じました。
おそるおそる後ろを向くと、あの子がいつもの何倍もの笑顔。
もはや怒り心頭の顔に見えるほどの笑顔を、教室のドアから、床とマジで平行!って感じで首だけ出していました。
体勢が辛かったのか、プルプル震えています。
僕は蛇に睨まれたカエルのように止まっていましたが、その子は僕に見つかったすぐ後、
「キャッ!」
と子供の笑い声のような物を出して、走って逃げてしまいました。
僕は朝錬に行かず、雑巾でグリスを拭きました。
クラスの奴らも
「どうしたの?」
と聞いた後、それがグリスだとわかると、気付いて手伝ってくれました。

後日談とかいろいろありますが、書きません。
もちろん、その子に対していじめなどはありませんでした。
諦めに近いものはありましたが。卒業式まで同じクラスで過ごしました。
その子は母親が少し変わった人のようで、今も8浪?して高校受験をさせられているそうです。



【出典:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?37】