出典:AsahiRadioWebio「電脳百物語」
大阪市北区藤原光雄さんの体験談

学校につきものの怪談ですが、表に出ない怪談もあるのです。
わたしが転勤した学校での話です。

美術を教えているわたしは、作家活動として自ら油絵も描いていました。
住まいは1LDKの借家のため、家で大きな作品を描くことができず、放課後いつも学校の美術室に残って作品を描いていました。
今度の転勤先でも同じように、美術室の一角で制作を続けていました。

ところが妙なことに気づきました。作品の表面に、小さい子供の手の跡が付いているのです。
油絵というのは乾きが非常に遅く、完全に乾くのに1週間かかることもあります。
わたしが知らないうちに誰かが触ったのかと、あまり気にもせず制作を続けました。
手の跡も、絵の具で上から塗り重ね消してしまいました。
しかし、次の日も子供の手が跡が付いていました。
1個どころではなく、作品の表面全体にびっしり付いていたのです。
100号という大きさの油絵ですので、単なるいたずらではないなと感じました。

その日は作品全体の手の跡を消しながら描いているうちに、作品の山場にさしかかり、9時、10時、11時と、いつしか夜中になってしまっていました。
わたしの筆の音しか聞こえないはずの美術室に、いつごろからか、猫の鳴き声とも赤ん坊の声とも言えない、泣き声が聞こえるようになりました。
窓を開けても猫の姿はなく、赤ん坊も当然いるわけもありません。
気にせず制作を続けていると、どうやら美術室の中から聞こえるようなのです。
泣き声のする方向を絞っていくと、美術室の後ろにある工芸用の電気釜の中のようです。
電気釜は焼き物を作るときに使う、大きめのゴミ箱ぐらいの大きさのものでしたが、故障なのか、長い間使った形跡はありません。
フタを開けると、本当に生徒がゴミ箱がわりに使っているらしく、丸めた紙くずなどで内部が一杯です。
転勤してきたわたしも片づける暇もなく、放置したままだったのです。

わたしが恐る恐る電気釜に近づいていくと、泣き声がふと止みました。
ひょっとして、生徒が子猫を閉じこめたのかもしれない。
そんないたずらをする生徒がいるなら、作品についた手の跡も納得できる。
わたしはいたずらの正体を見破るべく、電気釜のフタを開け、紙くずを拾い出しました。
美術室に響く紙の音は、気持ちのいいものではありませんでした。

手に取れるゴミは拾い出しましたが、猫など見あたりません。
電気釜の底の方には、乾いた砂が溜まっていました。
わたしは砂に手を突っ込み、中を探りました。
指先に手応えがあるので取り出してみると、それは骨でした。動物のもののような骨。
わたしは恐くなり、それ以上手を突っ込むことはできず、美術室を飛び出しました。

翌日、校長にこの出来事を話したところ、「すべてこちらで対応するから他言しないように」と強く言われました。
その後聞くところによると、わたしが転勤する前、不倫の末妊娠し退職した美術の女教師がいたということでした。
その人は現在消息不明だということです。
あの小さな手の跡と赤ん坊の泣き声は、一体何だったのでしょうか?



【出典:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?2】